Jをめぐる冒険BACK NUMBER
森脇、柏木、阿部それぞれの喜び方。
浦和の9年ぶりのタイトルに思う事。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE.PHOTOS
posted2016/10/18 11:30
ルヴァンカップの決勝、埼玉スタジアムには5万人を超える観客がつめかけた。彼らが目撃したのは、伝説の始まりだったのだろうか。
サポーターと選手は“親子のような関係”か。
阿部と遠藤の話を聞いていて思い出したのは、セルジオ越後さんから以前に聞いたこんな話だった。
「ブラジルではサポーターって親のようなものって言われているんだ。なんでか分かる? 親は子どもが頑張ったときは褒めてあげるけど、甘やかしてばかりではダメで、悪いことをしたときには叱るでしょ。そうして子どもって成長していく。
それと同じで、サポーターも選手がいいプレーをしたときは拍手してあげる。でも、悪いプレーをしたときは『そんなんじゃダメだ』ってちゃんと叱って、選手を育ててあげないといけない。選手だってそのブーイングに愛を感じれば、真摯に受け止めるし、ちゃんと反省するものだから」
ブラジルで生まれ、名門コリンチャンスでプロになったセルジオ越後さんはサポーターのありがたみが身にしみて分かっているのだろう。
浦和のサポーターと選手の関係が“親子のようなもの”なのかどうかは分からない。だが、10年という長い年月を掛けてようやく実現した今回の戴冠によって、その絆が深まったのは、確かだろう。
1つのタイトルがブレイクスルーになることは多い。
この勝利の、このタイトル獲得の意義について、改めて阿部が言う。
「ここ数年、決勝まで行っても、なかなか結果が出ない中で(場内を)一周回るっていうのは、サポーターに対しても、一緒に戦って来たメンバーに対しても、申し訳なかった。サポーターの方とはぶつかることもあったけど、今日は笑顔で一周できて、あの瞬間っていうのは、ひとつの方向に向かって行っていることが実感できるものだった。この先のレッズを考えたとき、ともに進んでいくためにはタイトルが必要だったと思うから、一緒に笑顔で終われてよかったと思います」
苦しみ抜いてタイトルを獲得したチームが、それによってブレイクスルーし、タイトルを積み重ねていくことがある。タイトルを獲得したという事実がさらなる自信を芽生えさせ、重圧から解き放たれたことでゲーム運びに一層の落ち着きと深みがもたらされる――。浦和にとってのライバル、鹿島とG大阪が、そうだった。
'03年から4シーズン主要タイトル無冠に終わっていた鹿島は、'07年にリーグタイトルを獲得すると、それまでの苦しみが嘘のように直後の天皇杯で優勝し、リーグ3連覇を成し遂げた。
'09年度の天皇杯優勝を最後にタイトルから見放され、'12年にはJ2に降格したG大阪もJ1に復帰した'14年のナビスコカップで優勝すると、そのシーズンに三冠を達成し、翌年、天皇杯を連覇した。
リーグ屈指の選手層を誇り、この勝利で勝負弱さを克服し、ゴール裏からあれだけ強力なサポートを得られる浦和に、それと同じことが起きても不思議ではない。