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梶谷隆幸らの死闘に水さす微妙判定。
DeNA敗退決めた、運命のあの一球。
posted2016/10/17 13:10
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph by
Hideki Sugiyama
最初に、梶谷隆幸には謝らねばならない。
筆者はCSファイナルステージ第2戦までの結果を受けて執筆した前回のコラムで、「これ以上、梶谷の起用を続けるのは賢明でない」と書いた。ジャイアンツとのファーストステージ第3戦で死球を受け、左手の薬指を骨折していた梶谷は、ほぼ片手でのバットスイングを余儀なくされた。第2戦の第4打席では、振った勢いでバットを落としてしまう姿も見られた。
あと1つ負ければ終わりの短期決戦。いくら非凡なセンスをもった好打者でも、負傷者の強行出場はカープ投手陣を助けることにしかならない。そう思っていた。
だが結果からみれば、28歳の精神力、そして技術の高さを見誤っていた。
連敗して迎えた土壇場のファイナル第3戦を前に、梶谷はこう語った。
「練習は軽めにして、試合で力を出せるようにしている。痛み止めも、本当は1錠のところを4錠にしてます。ちょっとでも効き目がよくなるかもしれない、効く時間が長くなるんじゃないかっていうアホな発想ですよ。4つ勝つ。それしかないんで、後先考えずに思いきりやるしかない」
左手薬指の爪は、依然として内出血で青黒くなっていた。
黒田、新井と広島の二枚看板を打ち破った梶谷。
第2戦に続いて5番を任された梶谷は、ベイスターズ2点リードで迎えた5回2死一、三塁のチャンスで打席に入った。
4番の筒香嘉智が敬遠気味の四球で歩かされたことが、男の心に火をつけた。
「見とけよ」
黒田博樹が投じた3球目の内角カットボールを振り抜き、ライト前タイムリー。貴重な追加点をもたらすと、8回裏2死満塁で打席に新井貴浩を迎えた大ピンチの場面では、フェンス際のファウルフライに猛然と飛びつき、窮地を救った。地面にぶつけた左手の痛みに、しばらく立つこともできなかった。
さらに第4戦では、3回の打席でまたも内角の変化球をさばいてライトスタンドへの2点本塁打。表情ひとつ変えずに悠々とダイヤモンドを一周すると、ベンチで出迎えたナインと右手でハイタッチを繰り返した。