ニッポン野球音頭BACK NUMBER
梶谷隆幸らの死闘に水さす微妙判定。
DeNA敗退決めた、運命のあの一球。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/10/17 13:10
最後の最後まで全力を出し切ったプレーだった梶谷。CS最後の試合でも、意地の2ランで広島を猛追している。
骨折の梶谷に対し、執拗な内角攻めを。
梶谷はカープバッテリーの配球について、こんなことを言っていた。
「ある程度、対応できるコースと、ここはもう打てないというコースがある。昨日(無安打に終わった第2戦)はやたらにそこに投げてこられた」
左手を強く握れないため、引き手である右手頼みのバッティングにならざるをえない。スイングスピードの低下に加えて、内へのボールには本能的に恐怖心が生まれる。梶谷が「対応できるコース」と語っていたのは外角のことであり、うまくタイミングを合わせてレフト方向に落とす形なら安打になる可能性があった。
だからカープの投手たちが内角を攻めたのは当然の策だった。そして梶谷は、痛みをこらえて両手を強く握り込み、思いきり打球を引っ張ることで敵の狙いを逆手にとったのだ。
ラミレス監督は連敗で後がなくなった後、「生きるか死ぬかの一戦」と、勝負にかける強い思いを表現していた。梶谷の攻守にわたる常識破りの活躍は、まさに決死の覚悟から生まれたものだった。
カープが日本シリーズ進出を決めた第4戦のスコアは8-7。ベイスターズも必死に食い下がったが、終わってみれば初回の6失点が重かった。
特に先頭の田中広輔への四球は、ファイナルステージ全体の流れを大きく左右した。
先制点を絶対に奪われないため、田中を抑える必要が。
5-0、3-0とカープが完勝し、第3戦はベイスターズが3-0とやり返した。梶谷だけでなく、肉離れからの復帰後すぐにリリーフのマウンドに立った須田幸太が2死満塁の危機をしのぎ、石川雄洋も昨オフに手術を受けた右ひじをフェンスに強打しながらフライを捕球した。
黒田を打ち、そして新井を抑えた。カープの象徴をなぎ倒して勝利を収めた勢い、さらに今後に控える先発のメンツを見ても、反攻につながる大きな期待感が膨らむ中で迎えた第4戦だった。
「流れはうちにきている。このシリーズでは特に先制点が重要な意味をもつ」
試合前、ラミレス監督は言った。先制点を奪われないための敵のキーマンは、言うまでもなく絶好調の田中だった。
第3戦まで12打席中11出塁(8安打・3四球)の田中を最初の打席で仕留め“確変”状態を終わらせることは、ベイスターズが主導権を握るためにも極めて重要なミッションだったのだ。