球道雑記BACK NUMBER
引退発表してからも素振りを続けた男。
サブローがロッテに残した猛練習の誇り。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/09/26 12:00
引退試合となった9月25日のオリックス戦。QVCマリンフィールドで、紙テープの中、ゆっくり球場を一周して歩いたサブロー。
40歳になっても「ホームランが打ちたいです」。
今年2月の石垣島春季キャンプで、大村とサブローの間にこんなやり取りがあった。
「今年、どうしたい?」(大村)
「もっと長打がほしい。ホームランが打ちたいです」(サブロー)
サブローは、まだプロ1、2年目の新人選手と変わらない貪欲な目つきをしていた。今年で40歳を迎えてもなお自身の成長を信じて疑わない男に、大村も心を奪われた。
そこから二人三脚で、サブローの再生プロジェクトが始まる。
「ホームランを打つにはパワーももちろんですけど、(最も力が入る)いいところでボールを捉える必要があるんですよ。となると、力の入るポイントへ持ってくるスイングが必要になってくる。そこを2人で追求してやってきましたね」
大村がまず指摘したのはサブローの悪癖。
「彼はバットをこねる癖が出るんです。だからヘッドが内側から巻き付くように入って、ヘッドの重みを利用したいと伝えました。少しでも始動を遅らせて、その遅らせたパワーを手元に引っ張っておいてから最後に爆発させようと……。打球も全方向に打てるようにしようってね。だから今年はライト方向にもセンター方向にも打ちましたし、5~6月頃にはそれがほとんど完成していたんですよ。これはもう上でも……と思えたし、40歳でついにバッティングが完成したなって僕もそのとき思った。ただ残念なことに、そのときは一軍に行く機会がなかったんですね」
二軍で絶好調でも一軍の選手が好調なら出られない。
今年の春先、千葉ロッテは投打が噛み合い、福岡ソフトバンクと首位を並走していた。
右の野手でもプロ11年目の細谷圭が覚醒して内・外野を兼務、ベテランの井口資仁も代打の切り札としてここ一番での活躍が目立ち、当時はそこにサブローが入っていく余地がなかった。
プロ野球は二軍の選手がどんなに好調でも、一軍の選手が同時期に好調であれば昇格の声がかからない世界でもある。
そんな状況下でもサブローは、決してあきらめずに自分の出番が必ず来ると信じてバットを振り続けた。じっとしていても汗がしたたり落ちてくる炎暑の中、連日約1時間も室内練習所で黙々とバットを振った。
「あの暑い中でよく頑張っていましたよ。普通の40歳だったら5分もバットを振ったらへとへとになる暑さですよ。それを彼は、誰にも文句を言わずやってきた」
その姿をルーキーの平沢大河や、2年目の香月一也や脇本直人はずっと見てきた。それこそ“男は黙って背中で見せる”を地で行く、真のリーダーシップと言えるものだった。
「だから(サブローに)チャンスが来るといいなあってずっと思っていましたよ。ベテランだから上げろとかそういうのではなくてね。純粋に戦力になると思っていたし、一軍でもいけると僕も手応えがあったし、本人も手応えがあったと思う。ただその機会はなかったから本当に残念でしたよね」(大村巌二軍打撃コーチ)