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日本で戦力外、いまやメジャー目前。
中後悠平の“変則左腕”は通じるか。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byKatsushi Nagao
posted2016/09/16 11:00
中後は大阪府出身の26歳。投げる腕の高さを自在に変える「千手観音投法」で近大では大学日本代表にも選出された。
日本ではすれ違った2人、アメリカで初対決。
34歳の青木と26歳の中後。世代を超えた2人の対決は、ちょっとした洒落っ気から生まれた。
4-1と3点リードながら5回1死一、二塁のピンチに登板した中後は、後続を打ち取って救援に成功。続く6回も走者を出しながら、抑えてマウンドを降りる予定だった。ここでネビン監督が気を利かす。
「日本人対決してこいよ」
7回の先頭打者は青木だった。中後がプロ野球でのキャリアを始めた2012年は、青木にとってのメジャー挑戦元年。つまり“入れ違い”であるから、両者に日本での対戦経験はない。
カウント2-2からの5球目、中後は「最後は青木さんも絶対スライダーを待ってる」と考えた。だが同時に、「そのスライダーは僕の武器ですからね」と腹を括る。日本でのキャリアもアメリカでのキャリアも相手の方が上。でも今、この瞬間は関係ない。ここで生き残るための最大の武器を、ただぶつけるのみ――。
キャッチャーが外角低めに構える。三振を奪いにいったスライダー。ところがこれが少しだけ甘く入った。ライナー性の鋭い打球が、左中間に飛ぶ。そこに駆け込んだのは中堅手。記録としては中飛。中後の「勝ち」である。
青木はカーブに驚き、中後は悔しさをにじませた。
「初球のカーブなんか、思わず体がビクッてしたぐらい切れがあった。あれは左バッター相手に使えると思うし、頑張って欲しいよね」
青木はそう初打席を振り返った。中後の方はどう思ったか。
「打たれた瞬間は絶対に左中間抜かれたと思ったんで、結果はアウトでしたけど勝負としては僕が間違いなく負けました」
屈託のない笑顔に、ほんの少しだけ悔しさがにじみ出ていた。
「スライダーで三振を狙いにいった中で、力んで真ん中に入ったというのが自分の甘さ。それを見逃さずに完ぺきにジャストミートして持って行ったのが青木さんの実力。さすがです」