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32年ぶり五輪出場の裏に異端の戦術。
水球日本代表が捨てた「常識と安定」。
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byKyodo News
posted2015/12/30 12:00
イケメン選手が話題だが、見て楽しいボールゲームだけに、ブレイクの可能性は十分にある。
当初、選手は新作戦を信頼していなかった。
たとえばバスケットボールで、ゴール前を200cmを超える選手たちががっちりと固めている状況に、180cm前後の選手たちがゴールを決めに行くところを思い浮かべてほしい。横から崩そうとパスを回してみても、ゴール前の選手たちはそうそう動いてくれない。上や外から決めようと思っても、相手のほうが大きいためにブロックされる。まさに絶望的な状況しか想像できない。
ならば、やれることはただひとつ。守られる前に攻めれば良い。相手にシュートを打たれることは仕方がない。だが、日本が攻撃に転じたとき、相手よりも早くゴールに向かって泳ぎ出して速攻を決める。つまり決められない、止められないセットプレーは捨ててしまい、相手がシュートを打つ前にボールを奪ったり、相手がディフェンスの形を作る前に素早く攻撃したりしてしまおう、というのがこの作戦の本質なのである。
この水球のセオリーを全く無視した大本ヘッドコーチの構想には、当時は反発も大きかった。なにせ、誰も見たこともやったこともない作戦なのだから、当然の反応だろう。
「最初、選手たちは誰も私を信頼してくれていなかったと思いますよ。世界的に見てもどこもやっていないシステムでしたし、私も試行錯誤を繰り返していました。何度も選手たちと話し合って、こうしたら良い、ああしたら良いと出してもらった意見もどんどん取り入れました。最終的に選手たちは私を信頼して最後までついてきてくれましたから、本当に感謝しています」
五輪出場の足がかりとなったのは「完全拘束合宿」。
『超攻撃型ディフェンス』構想を打ち出してから、徐々に日本は結果を残し始める。2014年の韓国・仁川でのアジア大会では、中国を退けて決勝に進出。惜しくもカザフスタンに敗れたものの、銀メダルを獲得する。今年のロシア・カザンでの世界水泳選手権では、決勝リーグには進めなかったがヨーロッパの強豪、ロシアを破る快挙を成し遂げた。
少しずつ自分たちの取り組みが結果として表れ、選手たちも自信を持ち始める。そして、最後の総仕上げとして、10月からアジア選手権が行われる12月までの2カ月間、完全拘束で選手たちを家に帰すことなく、ノンストップの合宿を敢行したのだ。