マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフトから自主トレ、空白の3カ月。
経験者が語る、「冬」の過ごし方。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/12/27 10:30
ドラフト指名は、高校生の生活を一変させるお祭りだ。しかし同時に、それは競争が始まる日でもあるのだ。
自動車免許、お祝い、入団報告などで忙殺され……。
「そんなにビックリするような練習量じゃないんですよ、メニューの内容。ちょっと安心するんですね、この程度かって。それとこの時期の高校生って、たいてい車の免許取りに行くんです、一般の生徒も。自分、行かなかったんですよ。もちろん男子ですから車に興味ありましたけど、寮に入ると何年か運転もできないって聞いてましたから。それなら、その時に教習所行けばいいやって。そのぶん、練習に時間使ってたのがよかったと思います。自分の場合、ほんとにこんなもんでいいのかなぁ……って、もらったメニューに疑いみたいなものもあったんで」
指名された選手が周囲から祝福を受けるのはドラフト直後だけじゃない。
仮契約、正式契約が報道されると、周囲はあらためて“おめでとうムード”一色になり、善意のお祝いが続く。
一方で、学校やチームの所在地、寮やグラウンドの所在地のお役所などに、入団報告などというセレモニーもあったりして、練習の時間が割かれがちになるのもこの時期だ。
「自分が忙しいんだから、ほかのヤツも忙しいんだろう…って思いたいじゃないですか。でも、それやったら“負け”ですから」
新人が意外と見落としがちな競争相手。
ルーキーイヤーからほぼ一軍に定着できたその選手は、カン違いを警戒せよという。
「僕もそうだったんですが、新人って、意識するのほかの新人だけなんですね、競争相手として。ほかの新人もあっちこっち振り回されて忙しいんだから、ちょっと練習量が減ってもだいじょうぶなんて考えてしまう。でも、実際プロ入りして競争する相手って、すでにプロに入ってる選手たちじゃないですか。新人って、意外と“そこ”が見えてないんですよ」
そういう彼は、同窓の先輩を含む複数の選手で、年内から自主トレーニング。そこで気づかされたという。
「一人で練習やってきた選手は、きっと、合同に出てきて『しまった!』と思いますよ。グラウンドに出て来てる選手は現役のほうが多いですから。わっ、オレ、この人たちと競争するんだったってね」
確かに、そこは盲点なのかもしれない。
ルーキーたちのほとんどは、まだじかに現役選手たちを見ていないので、意識の中に、彼らがいないのだ。