スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ナ・リーグの好投手とDH制。
~リーグによる投手の負担の違い~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2015/03/21 10:40
3月17日に右ひじ靱帯の修復手術“トミー・ジョン手術”を受けたと発表したア・リーグのダルビッシュ有。3月5日のオープン戦で右上腕の張りを訴えて、わずか12球で降板していた。
DH制のないナ・リーグでは、投手は息抜きができる。
となると、ナ・リーグでもDH制の採用を、という声がまたぞろ聞こえてくるのは、なんの不思議もない。2014年、ナ・リーグで打席に立った投手たちの通算打撃成績は、打率=1割2分4厘、出塁率=1割5分6厘、長打率=1割5分5厘という結果だった。
一方、ア・リーグ指名打者の通算打撃成績は、打率=2割4分9厘、出塁率=3割2分、長打率=4割2分4厘だった。OPSでいうと、.311対.744。かなり大きな差があることは疑いを容れない。まあたしかに、1シーズンに満塁本塁打2本('14年4月と7月)を放ったバムガーナーや、開幕戦('13年)でみずから本塁打を打って完封勝利したカーショーの例もあることはあるのだが、投手の殊勲打がこれだけ記憶に残るというのは、めったに起こらないことの裏返しといってよいのではないか。
要するに、投手が打席に立ってくれる限り、ナ・リーグの投手は息抜きができる。のみならず、8番打者もほとんどは貧打だから、ざっと見積もって9分の2は負担が軽くなるといっても過言ではない。本塁打数で見ても、ナ・リーグの8番+9番打者の合計が202本塁打なのに対して、ア・リーグの8番+9番の合計は302本。やや乱暴かもしれないが、ナ・リーグで7イニングスを投げるのは、ア・リーグで5回と3分の1程度を投げるのとほぼ等しい計算になると思う。
2リーグ制の面白さ、というのもあるはずだ。
これは不公平ではないか、と考える人たちが出てくるのは当然だろう。しかも近ごろは、両リーグとも15球団ずつの構成だから、ほぼ毎日、インターリーグ・プレー(交流戦)が行なわれている。ルールを統一したほうがなにかと便利ではないか、という声が上がっても、べつにおかしくはない。
だが私は、この改革案に両手を挙げて賛成する気になれない。2リーグ制の面白さとは、異なった方法論や体質がぶつかり合うところにあるからだ。ずっと昔から、ナ・リーグは投手力と走塁を売り物にしてきた。一方のア・リーグは長打一発の魅力でファンを増やしてきた。'73年にDH制が実施されてからは、エドガー・マルティネスやデヴィッド・オルティースのような専門家も出現した。