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マオリ・オールブラックスと大接戦。
五郎丸歩の「儀式」が延びた。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byAFLO

posted2014/11/12 10:30

マオリ・オールブラックスと大接戦。五郎丸歩の「儀式」が延びた。<Number Web> photograph by AFLO

ペナルティキックの前に、恒例の「儀式」をする五郎丸歩。所属のヤマハではトップリーグ得点王を何度も獲得した名キッカーである。

得点の半分近くを生み出した、五郎丸歩のキック。

 でも、冷静になって考えてみると、18点取ったうちトライは、認定トライのほかには快足WTB山田章仁がタッチライン沿いを駆け抜けた1本があるだけ。あとはみんなFB五郎丸歩のキックから生まれた得点だった。たしかにジャパンは強くなっている。しかし、スクラムや1対1での戦いに強くなり、簡単に突破されたり振り切られたりしなくはなったが、それは土俵で五分に組める力がついたということで、そこから先の攻め手をそれほどたくさん持っているわけではない。強い相手になればなるほど五郎丸のキックの重要性が高くなる。

 その五郎丸だが、どうもここ数年、ゴールキックのときの前振りというか儀式が長くなっているように思えてしかたがない。ボールをセットしたあと、やや腰を落とし、両手を顔の前で近づけて軽く動かす。照準を定めているようにも見えるのだが、口の悪い人にいわせると「友達にカンチョーをしようとつけ狙う子ども」に見えるという不思議な動きだ。ずっと見ているわけではないので、いつ頃からはじめたのか知らないし、やっていたとしても、今のように「長いなあ」と感じるほどの時間ではなかったと思う。

ワールドカップでの勝利も見えてきたジャパン。

 でも、実際に蹴るまでの「儀式」が長くなっているとしたら、その理由はわかる気がする。五郎丸は早稲田のときからジャパンに呼ばれた逸材だが、卒業後はヤマハに入った。当時のヤマハは今みたいなプロ集団ではなく、企業チームでどこかのんびりしたところがあった。五郎丸本人からヤマハに入った理由を聞いたとき、「ほかと比べて楽しそうだったから」と語っていた。ガツガツやるつもりはなかったのだろう。

 だが、ヤマハは清宮克幸監督になって容赦なく勝ちをねらうチームに変っていった。ジャパンもジョーンズコーチのもと、表面的な戦術をいじるのではなく、フィジカルから鍛えなおし、スクラムを飛躍的に強くするといった方法で、ワールドカップでの勝利が現実的に考えられるチームに変ってきている。そしてその変化の中で、自分のキックの比重がどんどん高くなっている。これはカンチョーといわれようが、自分流の精神集中でキックの精度を上げるしかない。五郎丸の儀式は、来年に向けてもっと長くなるかもしれない。見ているとちょっと気にはなるが、それはジャパンが勝利を現実的に意識している証拠ととらえたほうがよさそうだ。

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山田章仁
五郎丸歩
清宮克幸

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