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セリエAで子供の野次に罰金70万円!
試されているのは大人たちなのだ。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2013/12/17 16:05
ウディネーゼ戦に訪れたユベントスのキッズファン。無邪気な応援の中に痛烈な野次が入り混じった。
子供たちはただ、大人たちの真似をしたにすぎない。
この異例の罰金請求に、CONI(イタリア五輪委員会)のマラゴー委員長は「明らかに馬鹿げている」と断固反対の姿勢をとった。
侮蔑行為を受けたウディネーゼのグイドリン監督も「さすがに規定の濫用だ。罰金より、正しい応援スタイルを子供たちに辛抱強く教えていく方が重要だ」とユーベを擁護した。当のユベントスは「困惑している」と声明を出したが、低額であることを理由に支払いに応じている。
処分の是非や子供たちの暴言の根源をめぐって、心理学者や教育学者まで出てきて、イタリアではしばらく世論が沸いた。
子供たちの頭には“たしゃへのけいい”だとか“りょうしんのかしゃく”とかいった言葉は、まだ刷り込まれていない。彼らはただ、日々目に映るものや身近な大人たちの真似をしたにすぎないのだ。
ユーベの小さなファンたちをめぐる議論が沸騰していた頃、時期を同じくして、ELを戦っているラツィオがポーランドへ遠征した。
その応援でワルシャワに向かったラツィオのウルトラス150人が、スタジアムまで帯同していた現地の警官隊と衝突し、逮捕される事件が起きた。大部分は釈放されたものの、原稿執筆時点では20人以上が拘留されたままだ。
身元引渡しをめぐって、現地閣僚がウルトラスを「盗賊ども」と呼んだことで、ポーランドとイタリア両国首脳が介入する外交問題にまで発展してしまった。
子供たちは、誰を手本にすればいいのだろう。
子供たちは、誰を手本にすればいいのだろう。
ユベントスの闘将コンテは「イタリアのスタジアムは暴力的すぎてむかつく。もっと家族連れが安心して来られるようにしなければならない」と言いながら、「(荒くれの)ウルトラスも観客席に必要だ」と無理難題を言う。
試合中、動きの悪い選手に「てめえ、頭かち割るぞ!」などとコンテ自身が怒鳴りたてているのだから、子供たちへ正しい言葉遣いを説いても、まるで説得力がない。
低迷していた名門を再建し、連覇を達成したコンテは間違いなく名監督だ。彼の姿を見て、子供たちが“行儀がよくても結果が出せなければ意味がない。言葉遣いはそう大事なことではない”と解釈するのも無理はない。