プロ野球亭日乗BACK NUMBER
今までの横浜ナインの野球感を覆す、
カウント1-3における渡辺直人の選択。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/12/27 10:30
来季の契約更改を楽天球団と済ませた直後の12月9日、横浜への金銭トレードの通告を受けた渡辺直人。生え抜きの中心選手の放出はチーム内外に大きな波紋を広げた
“自分で自動待て”が3割5分3厘の高出塁率に結びつく。
だが、渡辺にはあまり目立たないが、特筆すべき数字がある。
それは3割5分3厘という出塁率だ。
「カウント1-3になったら“自分で自動待て”をかけているんだろ?」
ある選手が、こんなことを渡辺に聞いたことがあるという。
「……」
企業秘密もあるので、本人は言葉を濁したそうだが、この沈黙が答えでもあった。
1-3は圧倒的に打者有利のカウントだが、そのシチュエーションで渡辺はほとんどバットを振ることがない。四球の可能性があるので、そこで我慢して“自分で自動待て”と決めているのだ。
打率2割6分5厘でもチームにとっては3割打者と同じ価値が。
カウント1-3というヒットカウントで我慢していたら、その打者はなかなか3割は打てないだろう。ただ、選手が3割を打つにはおいしいカウントでも、チームにとっては安打も四球も意味は同じなのだ。より高い確率で出塁できる、安打を打てる可能性を捨てても四球をとる。渡辺はその可能性を選択する選手、ということだ。
逆に言えば、だからこそ打率2割6分5厘でも、出塁率は1割近くアップする。実質的に渡辺はチームにとっては3割打者に匹敵する能力を秘めた選手、ということになるわけだ。
2010年シーズン、横浜の選手で100試合以上出場して出塁率が3割5分を越えたのは内川(3割7分1厘)と下園辰哉外野手(3割6分5厘)の2人しかいなかった。しかも、そのうちの1人の内川がソフトバンクに移籍してしまった。
塁に出て、まずチャンスを作るリードオフマンがいない。そう考えると、横浜には渡辺のような選手がいかに必要か、ということが鮮明になってくる。