野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
僕は楽天イーグルスの
「初代応援団員」だった。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byTomohiro Okano
posted2013/09/26 10:30
懸命に声を張り上げる岡野。アナウンサーを志望していただけあって、よく通る声をしている。
ロッテとの開幕戦、恐怖で涙がでた。
2005年3月26日。千葉マリンスタジアム。東北楽天ゴールデンイーグルスの初陣の相手は、9年ぶりの本拠地開幕戦を迎え気勢が上がる千葉ロッテ。満員に膨れ上がった球場は360度マリーンズの白に囲まれ、楽天ファンはレフトスタンドの一角を占めるだけだった。その試合前、大黒摩季が歌う国歌を聞いていた岡野の目は、涙でうるんでいた。
「……いや、感動とかじゃなくて、単純に怖かったんです。だって、相手はあの年のロッテですよ。想像してみてください。河川敷やオープン戦でちょっと練習しただけで、実経験がまったくないから、スタンドの人たちをどうやって盛り上げたらいいかわからないんです。そんなあやふやな状況の中で、国歌独唱が終わるや否やロッテファンの『ファイティン!』って轟音が襲い掛かってくるんです。『俺、何でこんなところに来ちゃったんだろう……』って怖くて怖くて、気が付いたら泣いていました」
さらに悪いことに、1回の表。岡野は楽天イーグルス応援団として初めてのリードを取ることになってしまう。
「それでは、関川選手に大きな声でお願いします!」
1番打者の関川が打席に入ると、岡野は勇気を振り絞って声を張り上げた。しかし、その勇気も、あっという間にしぼんでしまうことになる。
お客さん、ロッテの応援団に助けられ試合も初勝利。
「声を出してみたはいいものの、その後はバラバラでした。笛とトランペットと太鼓をどういうタイミングでやればいいかわからない。お客さんもどうしていいかわからず困っていますしね。もう頭の中が真っ白になって『どうしよう、どうしよう……』と混乱していたんです。
すると、スタンドにいたお客さんの中に、応援団経験のある女性の方がいて、あたふたしている僕を見兼ねたんでしょう。『あんたー! リードと太鼓は笛と一緒にピーとやったらドンって叩けー!』、『旗は腰から振れー!』って教えてくれて。しまいには敵のはずのロッテの応援団の方も見に来てくれて、応援の基礎の基礎を教えてくれました。その人たちの助けでなんとか最後まで続けることができて、その試合も3対1で勝つことができたんです」
楽天イーグルスの記念すべき初ゲームを勝利で飾り、ふらふらながらも応援をやり切った岡野は「やれるかもしれない」という手応えと、これまで経験したことのない、何とも言えない充実感に酔いしれた。