野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
僕は楽天イーグルスの
「初代応援団員」だった。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byTomohiro Okano
posted2013/09/26 10:30
懸命に声を張り上げる岡野。アナウンサーを志望していただけあって、よく通る声をしている。
「正直なところ記憶がない」26-0の大敗。
翌日の第2戦。マリンスタジアムのレフトスタンドは、開幕戦に楽天本社から応援に駆け付けた社員がいなくなったことで、わずかな楽天ファンしか集まらなかった。それでも昨日の勝ちで勢いをつけた応援団からは、先発に藤崎紘範の名がアナウンスされると、「お客さーん! 藤崎百貨店(仙台にある百貨店)千葉支店が間もなく開店しまーす!」なんて冗談も飛び出すほどいい雰囲気だった。
試合は26-0。歴史的大敗だった。
「あの試合……愕然としたという人もいれば、ただの一敗という人も、歴史を目撃したという人もいましたけど、正直なところ僕は記憶がないんですよ。かろうじて覚えているのが、2回で小坂さんと西岡さんが猛打賞を記録したこと。あと、藤崎さんがKOされた時に、仲間が『すいませーん、藤崎百貨店、2回で閉店しまーす! 申し訳ありませーん』と言っていたことぐらいですね」
20人の楽天ファンと、たった一人の応援団。
翌日から福岡に移動してのソフトバンク3連戦には、岡野をはじめ応援団の誰もが福岡行きの都合がつかず、楽天は応援団なしでの試合を強いられる。
「福岡での初戦が終わった夜に、ネットの書き込みを見ていたら『楽天に応援団がいない』というファンの声があったんです。他のメンバーは皆社会人ですし、都合がつくのは学生の僕しかいない。僕が行かなきゃという使命感に駆られて、翌日スーツ姿で福岡に行きました。ヤフードームに行くと、楽天ファンは20人もいない。応援団も当然いません。
トランペットも太鼓もない、旗も振れないスーツ姿の応援団3日目の僕が前に立って、『みなさん、僕は今年から楽天の応援団をはじめた者です! 福岡でも応援したいので、皆さんよろしくお願いします!』と言ったら、ファンの人が『楽天の応援団が福岡に来てくれた!』って大喜びしてくれたんです。トランペットも太鼓もない応援で、2試合とも負けてしまいましたけど、それを見ていたお客さんが後に『一緒に応援団をやりたい』って名乗り出てくれて、九州荒鷲会ができることになるんです」
福岡での試合を終えた岡野は、そのまま仙台に飛ぶ。4月1日。本拠地・フルキャストスタジアム宮城での開幕戦。イーグルスの地元で岡野たち関東荒鷲会はさらなる問題に直面する。