サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
柿谷の2ゴールで東アジア杯初優勝。
本田とは異なる1トップ&トップ下像を。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTakuya Sugiyama
posted2013/07/29 12:25
ザッケローニ監督は「すぐに再招集される選手がいる」と序列の更新を示唆した。柿谷がその筆頭にいることは間違いないだろう。
豊田に象徴される、チームと個のバランスのよさ。
ベンチに控えていた攻撃陣は、第2戦で得点を決めた大迫勇也、齋藤学と得点のない豊田陽平、山田大記。指揮官がピッチに送り出したのは山田(後半25分に工藤と交代)、そして豊田(後半43分に高萩と交代)だった。豊田が入った後は柿谷がトップ下を務めた。
出番の訪れた2人は果敢に動いた。とりわけ豊田の投入は、高さ対策や前線からのチェイシング、そして、オーストラリア戦で「豊田にはゴールを決めさせてあげたかった」と話していたように、短時間ながら得点への期待も当然高かった。
結果的にこの起用がザッケローニ体制2度目のタイトルをもたらしたのだから、興味深い。日本が勝ち越しゴールを決めた4分後、韓国のCKでは、GK西川周作が飛び出して弾いたところを、ゴール前に立ちはだかった豊田が頭でクリアした。
「短い時間だったけど、絶対にチームのために、日本のためにやりたいという気持ちだった」と胸を張った豊田の言葉に象徴されるように、国内勢で固められたこのチームの良さは、短期間で戦う集団としてまとまり、それぞれがしっかりとチーム戦術をこなしたうえで個のアピールをするという姿があったことだ。
2週間後の8月14日には、ウルグアイとの親善試合がある。欧州組が揃うこの試合で関心が注がれるのは、東アジアカップ組から何人が再招集を果たすのか、誰が呼ばれるのかだ。
試合後、ザッケローニ監督は、'11年にアジア杯で優勝したときのような饒舌ぶりで大会を振り返り、「優勝は純粋にうれしい。今回のメンバーには現時点で代表に呼べる選手もいるし、他にも将来的に代表に入ってくる選手がいる」と、ウルグアイ戦への新戦力招集を“確約”した。
本田と柿谷、タイプの違う2人がチームの幅をもたらす。
注目はなんと言っても柿谷だろう。元来はトップ下のメンタリティーでプレーする選手だが、今大会では1トップとしてもアジアの舞台で通用することを証明した。
1トップとトップ下の両方をこなす選手としては本田圭佑がいるが、柿谷と本田ではタイプが違う。“人を使うタイプ”というパーソナリティーを崩さずにトップをこなす本田と対照的に、柿谷の場合は1トップでは“使われる”方へ頭を切り換えてプレーしている。今大会、練習を含めて2つのポジションで柿谷を試したザッケローニ監督は「現時点ではセンターフォワードの頭でプレーしていると思う。時間をかければ両方できると思う」と分析する。
本田ほどの体の強さはないが、DFラインとの駆け引きの中で裏を取る動きは本田にはない切れ味。前田遼一との争いという側面もあるが、柿谷が入ればチーム構成に新たなバリエーションをもたらすことになるだろう。
ザッケローニ監督は、「今回のメンバーの適応力は想定以上だった。これまでもA代表でメンバーが欠けても動じることはなかったし、チョイスは豊富にあったが、選択肢は増えたなと思う」と、“入れ替え枠”を増やすことも視野に入れ始めたことを示唆した。
弱点補強という枠を超えて新たなアイデアを指揮官にもたらそうとしているのは、もちろん、柿谷だけでない。コンフェデレーションズカップを3連敗で終え、閉塞感の漂っていたザックジャパンは、東アジアカップで新たな勇気とバランスを形成していくきっかけをつかんだ。