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代表監督選考で日本とこんな差が!
韓国サッカー協会が南アで得た確信。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2010/09/17 10:30
「韓国人監督でもやれる!」南ア大会で得た強い確信。
――とはいっても、許丁茂を任命したのは成功だったと思う。南ア大会では韓国代表をベスト16まで導いたし、チームの出来も決して悪くはなかった。選手の運動量は豊富だったし、攻撃でも守備でも実に組織的で、自分たちの「型」に自信を持っているように見えた。南ア大会の後、韓国協会が趙広来(チョ・グァンレ/写真)の監督就任を早々と発表したのも、韓国人監督に対する手応えを得たからじゃないだろうか。
「その指摘は正しいと思う。許丁茂は大会期間中も戦術的なひらめきが感じられないと批判されたけど、少なくとも南アで結果を出したことで、韓国では『国産の監督でもやれる』という考え方が広まったんだ。
それに韓国の指導者の中には、外国人監督が代表の指揮を執るのは屈辱的だと感じるような雰囲気も生まれていた。協会はこういう状況を踏まえて、韓国人を続けて代表監督に起用することにしたんだ。
そもそも外国から監督を呼んだ場合は、どうしても韓国という国に馴染むまで時間がかかるし、選手のこともあまり知らないわけだから招集の際にミスを犯してしまう危険性もある。韓国サッカー界は長年の経験を通して、よほど優秀な人材でもない限り、外国人監督を起用するのは必ずしも得策だとは限らないってことを学んだんだよ」
スペイン流の攻撃サッカーを信奉する、現監督の実像。
――ここからは新監督について少し教えて欲しい。韓国協会はなぜ趙広来に白羽の矢を立てたんだろう?
「趙広来は現役時代、『コンピューターリンク』という愛称で親しまれたMFでパスの名手だった。それに昔から知的な人間としても通っている。
監督になってからは第一線を離れた時期もあったけど、2007年に慶南FCを引き継いだ後は、再び大きな注目を集めるようになった。慶南FCは資金力がなくてスター選手もまるでいないクラブだったのに、昨シーズンからはスペイン流の攻撃サッカーを実践して人気が出たんだ。それに彼は、若手を育て上げるのがとてもうまいことでも知られている。慶南FCはファンから『チョ・グァンレの幼稚園』と呼ばれていたぐらいさ。
韓国協会の上層部と太いパイプがあったわけではないけれど、韓国のファンは彼をすごく評価していた。もともと'86年のW杯メキシコ大会に出場したようなスター選手だったことも、代表監督になるうえで役に立ったと思う」
――小さなクラブを率いてファンを楽しませるサッカーをする。そして若手の育成もうまい。世代も人種も経歴も違うけど、なんとなくイビチャ・オシムを彷彿とさせるよね。彼が唱えた「韓国サッカーの世界化」というスローガンも、オシムが口にした「日本サッカーの日本化」という言葉を連想させる。趙広来は「スペイン流の攻撃サッカー」の信奉者だという説明があったけど、その中身を具体的に説明してくれるかな?
「ボールポゼッションとショートパス、それにポジションチェンジを重視するスタイルだよ。フォーメーションは3-4-3がベースで、前線には3枚のFW、中盤にはテクニックのある選手を置いて、ウィングバック(サイドMF)も積極的に攻撃に絡ませる。彼は『DFのひとりがスウィーパーになって、リベロのように中盤まで上がっていけるようにもしたい』ともコメントしているけど、8月11日に行われたナイジェリアとの親善試合では、まさにこういうサッカーを披露してみせた。選手への指導の仕方も手馴れたもんで、すぐに自分の戦術を覚えさせるために、A4で12枚もある資料を作って読ませたりしている」