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支えてくれた恩人にダービーを――。
武豊、キズナの鞍上で期する思い。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2013/05/23 10:30
前走の京都新聞杯(5月4日)では、最後方待機から直線で異次元の末脚を見せ勝利を収めたキズナ。手綱をとる武豊は、キズナの父ディープインパクトとのコンビで勝利して以来、8年ぶり5度目のダービー制覇を目指す。
恩人が育てた逸材の鞍上を任された武が期するもの。
キズナは、2011年の宝塚記念を勝ったアーネストリー、ダートGIを4勝したトランセンドなどのオーナーとして知られる前田幸治が代表をつとめる生産牧場、ノースヒルズ始まって以来の逸材と早くから言われていた。
父ディープインパクトは言わずと知れた最強馬。種牡馬として早くも7頭のGI馬(国内のみの数字)を送り出しており、うち1頭、ディープブリランテは昨年のダービーを制し、史上7組目の父仔制覇を達成した。
半姉ファレノプシス(父ブライアンズタイム)は、'98年の桜花賞、秋華賞、2000年のエリザベス女王杯などを制した名牝である。うち桜花賞と秋華賞は武の手綱による勝利であった。
もともとキズナの主戦騎手は佐藤哲三で、彼が落馬負傷したことによって武が起用されたわけだが、こうして血統を見ると、武とも強い「絆」で結ばれていることがわかる。ノースヒルズの総帥である前田(キズナの馬主は弟の前田晋二)は、勝ち鞍が減った時期も変わらずサポートしてくれた恩人だけに、武には期するものがあるはずだ。
京都新聞杯で見せた豪脚で、ダービーの主役の座を確たるものに。
新馬戦と黄菊賞を佐藤が乗って勝ち、武に乗り替わったラジオNIKKEI杯2歳ステークスで3着、年明け初戦の弥生賞では5着となり、皐月賞の出走権を得ることができなかった。
つづく毎日杯を、ラスト3ハロン34秒3という、2番目の馬より1秒以上速い驚異的な末脚で圧勝し、賞金的に皐月賞出走が可能になったのだが、最大目標のダービーに全力投球すべく皐月賞をスキップ。次走、距離が2200mとダービー本番に近い京都新聞杯では、直線だけで前の十数頭をぶっこ抜く豪脚を披露し、ダービーの主役の座を確たるものにした。
「勝ち鞍が減って、離れて行った人たちもいます。悪いのは去って行った人ではなく、結果を出せない自分なのだから仕方がない。でも、ずっと変わらず応援してくれている人の馬で結果を出せないときだけは、本当につらいですね」
武がそう話したことがある。キズナで勝てなかった最初の2戦は、そうした思いが強かったことだろう。
だが、腹を括って乗った毎日杯と京都新聞杯で、彼はキズナを完全に手の内に入れた。