野球善哉BACK NUMBER
報徳・田村、京都外大西・松岡……。
甲子園を沸かせる1年生の逸材たち。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/08/02 12:30
智弁学園の青山大紀は3人の中でも群を抜く存在!
甲子園切符は逃したが、智弁学園の背番号「9」青山大紀は、3人の中でも、飛び抜けた存在だ。背番号が表しているように、彼は野手としての非凡な才能も併せ持つ。入学して間もなく、右翼手でレギュラーを獲得。一塁到達、4秒10のタイムを常時叩きだす脚力もさることながら、柔らかいリストワークの打撃は確実性も高い。
春季大会途中でベンチ外になったかと思うと、この夏は投手として颯爽と登場。地方大会4試合に登板し、すべての試合で救援登板。敗れた決勝の天理戦は腕試しの要素が強かったが、1年生にしてストッパーを任されるあたり、彼への信頼度は高い。
2回戦の高円戦ではストレートが142キロを計測。そればかりでなく、カットボール、スライダー、チェンジアップ、ツーシームなど、多彩な変化球を使い分ける器用さもある。登板するたび、「緊張はしなかった」と堂々とした語り口には大物感さえ漂う。
決勝の天理戦でこんなことがあった。11点ビハインドでマウンドに上がった青山は、天理の5番・内野聡と対峙した。1年秋の公式戦で3本塁打を放ったこともある大砲の内野に対し、カウント2-3からストレート勝負に行き、場外ホームランをくらった。結果云々ではなく、2学年上の強打者に対し、ストレート勝負に行ったところに、彼のスケールの大きさがみえる。小手先でやるのではなく、力を試す。そうした彼の姿勢に成長を予感した。そして、9回表には、天理の4番・安田紘規をストレートで空振りの三振に斬った。
1年生からスター扱いされて長続きした選手は少ない。
とはいえ、青山にしても、田村、松岡にしても、1年生で試合に出ること自体が必ずしも、良いこととは言い切れない。過去の逸材たちを振り返ってみても、1年から活躍して最後まで活躍し続けた選手が多いかと言うと、そうでもないのだ。どうだろう、実際のところ桑田、清原のKKくらいのものではないだろうか。
中田翔は1年夏、2年夏、3年春と甲子園に出ているが、3年夏は逃している。前田健太(広島)にしたって、1年夏に華々しくデビューしたが、以後3年の春しか出ていない。一方で、1年夏に甲子園5勝という偉業をなしとげた京都外大西の本田拓人は、その後で苦しみ、進学先の大学を中退している。1年夏の活躍はよりよい未来を示しているわけではないのだ。
理由は様々ある。1年生から活躍したという実績から来るプレッシャー、常に世間の目にさらされるというストレス、1年夏という成長過程での登板過多の弊害、もちろんチームが早々に敗退して目立たなかったということもあるだろう。