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解任続出の前半戦に見る、
メジャー監督の悲哀。
text by

四竈衛Mamoru Shikama
photograph byYukihito Taguchi
posted2010/08/09 06:00

'00年にフィリーズ解任も、その後Rソックスを2度のWシリーズ制覇に導いたフランコナ
「数字は数字。勝利後、10分間は祝ってもいいが、あとは次に向かうだけだ」
7月9日、監督としてメジャー通算900勝目を挙げたレッドソックスのテリー・フランコナは、淡々と言った。たとえ個人として白星を積み重ねても、チームがプレーオフ進出を逃せば厳しい批判にさらされる。監督業の悲哀を知るだけに、節目の勝利にも感慨にふけることはなかった。
実際、今季は球宴を前に、監督交代が相次いだ。5月にロイヤルズのヒルマンが解任されたのをはじめ、オリオールズのトレンブリー、マーリンズのゴンザレスと、不振に喘ぐチームは容赦なく現場トップの粛清を断行した。
監督だけではない。7月1日にはダイヤモンドバックスが、監督のヒンチとともにGMのバーンズを解雇した。ヒンチは'12年、バーンズは'15年まで契約が残っていたにもかかわらず、経営陣は大胆な人事刷新に着手したのだ。
一部を除き、メジャーの監督は常に解任と背中合わせ。
メジャーの場合、首脳陣の責任は極めて重い。資金力が潤沢なヤンキースのように常勝を義務付けられる球団だけでなく、低年俸のチームでも、若手の発掘など将来を見据えた戦いをしない限り、黒星を重ねることは許されない。それほどオフの戦力構想が重要で、中長期的な視点がないチームは、シーズン中に糸がほつれ、やがて複雑にもつれ始める。各GMが7月末のトレード期限直前まで補強を画策するのもほつれを繕うためで、それを怠ると自らの立場も危うくなる。
自らヤンキースを退団し、ドジャースと3年約13億円の契約を結んだトーリや、今季限りで勇退するブレーブスのコックスら、自分の意思で去就を決断できる監督もいる。だが、その多くは常に解任と背中合わせの中で、指揮を執っている。
それでも、一度味わった監督業の快感は忘れられないのだろう。フランコナにしても、'00年にフィリーズから解雇された経験を持つ。それだけに、名将の域に近付き始めた今でも、延長戦のナイター後、翌日のデーゲームに備え、球場内の監督室で寝泊まりすることも珍しくない。「私は競争することを楽しんでいる。これは長い旅なんだ」。胃がきしむような緊張感があればこそ、やり遂げた時の達成感は格別に違いない。
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