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イチローとマリナーズ、
10年目の「異常事態」。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byKYODO

posted2010/08/07 08:00

イチローとマリナーズ、10年目の「異常事態」。<Number Web> photograph by KYODO

7月25日は2年ぶりに松坂大輔と対戦したが3打席無安打に抑えられた。空振り三振、一ゴロ、三ゴロ。この日のイチローは5打数無安打

 10年連続200安打達成を目指すイチロー選手を取り巻く環境が、ここに来て最悪な状態に陥っている。

 7月の月間打率(.246)がメジャー10年目で最低だったのだ。

 これまでイチローの打撃傾向は、開幕直後はエンジンがかからないものの、5月以降から徐々に調子を上げていくというパターンが多かった。通算の月別打率を見ても、3~4月期のみ3割を切り.298に留まるものの、5月以降は最低でも9~10月期の.323という数字を残すほどには上昇してきていた。過去の7月の最低記録でも.325は出しており、今年の不振がいかに異常事態かがわかるだろう。

「知らない。振り返りたくもない」

 7月の成績について聞かれ、イチローは短く答えている。この冷たい言葉は、自分自身の打撃不振に向けられているのは間違いないのだろう。

フィギンズとワカマツ監督の衝突が象徴するチーム状況。

 その一方でイチローは、置かれているマリナーズのチーム状態に対して悲嘆にくれてしまっているのではないかとも思う。それくらい、チームは惨憺たる有様だといわざるを得ないのだ。

 7月23日のレッドソックス戦で起きた事件が、象徴的な出来事だった。

 5回表に相手打者が放った左翼線二塁打の送球カバーを二塁手のチョーン・フィギンズが怠たり三塁まで打者を進ませてしまった。イニング終了後ベンチに戻ったフィギンズにワカマツ監督が注意しようとしたところ激しい口論となり、掴み掛かろうとする両者に選手たちが割ってはいるという修羅場を演じてしまったのだ。

 敗北を繰り返している弱小チームの常といってしまえば仕方がないが、チームとしてのタガが緩んでしまい、選手の戦闘意欲が薄れ、軽率なプレーが目立つようになってきている。勝利のためのチームワークが今こそ必要であるはずなのに、その意識にまで選手間でズレが生じ始め、もはや不平不満も抑えられなくなり……爆発してしまう。

レイズは選手間のトラブルをきっかけに優勝争いに急浮上。

 ただ、このような暴発が一概にネガティブだというわけでもない。

 6月27日にレイズでも同様の事件が起きているのだ。

 打球を全速力で追わなかったBJ・アップトンに対しエバン・ロンゴリアがベンチで意見した際に、両者が顔を突き合わせて激しい口論にまで発展してしまった。この時期のレイズは、開幕から快進撃を続けた状況とは一変し、30試合を12勝18敗と負け越しており、地区首位の座をヤンキースに明け渡していた。

 ところが休日明けの同29日。マドン監督と話し合いを行ったアップトンは、試合前のクラブハウスで選手全員に自分の態度を謝罪したのだ。結局このことがチーム内の不平、不満を取り除く効果をもたらし、現在ではヤンキースと熾烈な首位争いを演じるまでに復活してきている。

【次ページ】 態度を硬化させるフィギンズが露呈したチームの亀裂。

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