Number ExBACK NUMBER
10年越しに叶えた2つの夢。フリーダイバー・篠宮龍三、闘いの軌跡。~日本で世界選手権、初開催~
text by
野田幾子Ikuko Noda
photograph byKanako Nagashima
posted2010/07/30 10:30
オーガナイザーとアスリート、一人二役のジレンマ。
「一人の人間の中に、オーガナイザーとアスリートを共存させるのは難しい」
そう篠宮は言う。大会オーガナイザーとしては、何より安全に、スタッフと選手に無理をさせないで闘ってもらうということを一番に考える。それに対してアスリートは闘争心を持ち、突き抜けなければならない。また、同じアスリートの中にも2つの側面がある。自分の限界までチャレンジしたいという濱崎の気持ちも痛いほどわかるが、同時に、チームに対する役割をキッチリこなすことを最優先にしてほしいという苛立ちとジレンマもあった。
「濱崎には自分のようにスランプに陥ってほしくないし、ましてや危険な目にあってほしくない。作戦を考える中、そんな自分の気持ちをチームメイトに伝える時間はなかったな。その情報共有がないままで作戦だけを考えていったから、理詰めで押しつけたように思えたのかもしれない」
競技や練習が終わってひとりになり、ふたつのモードを切り換えていたつもりだった。しかし、オーガナイザーとしてもアスリートとしてもストレスが溜まって、ぐしゃぐしゃになってしまった瞬間が何度もあった。コンスタント競技2日目、ギヨームに襲いかかったアクシデント、スタティックで大島にひやっとした瞬間、濱崎の激しい痙攣を見たときの恐れと焦り……。
「いま思えば、ギリギリの精神バランスで競技をこなしていました」
綿密な戦略のデンマークに敗れた日本男子の戦法。
最終的に男子で優勝したのは、日本勢がまったくマークしていなかったデンマークだった。2位の日本に30ポイントの差をつけた圧勝。しかも最終競技のダイナミックでは、2名が潜水距離229mのナショナルレコードをたたき出した。
日本選手は3人ともダイナミックで200m越えを達成。中でも篠宮はベスト公式記録から11m、大島は24mのばし、それぞれ203m、205mの記録をマークした。濱崎はチーム最長泳の207mだった。
金メダルを取るには、大きく分けて2つのやり方があるという。無心で自分たちのベストを尽くし、周囲をまるで意識しないやり方。日本男子は、今回その戦法をとった。ポイントの計算はするが、最終種目のダイナミックでは「○m泳げば勝てる」とは伝えない作戦だ。ホワイトカードが確実にとれるのであれば、できるところまで泳いでいいとした。もうひとつが、専任の監督が綿密な戦略を立て、徹底して遂行させるデンマークのようなやり方だ。
いずれにしても各選手の高いパフォーマンスが必要で、戦略を握る参謀役の手腕が問われる。今回は戦略に沿ってことを進めたデンマークに軍配が上がった。