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10年越しに叶えた2つの夢。フリーダイバー・篠宮龍三、闘いの軌跡。~日本で世界選手権、初開催~ 

text by

野田幾子

野田幾子Ikuko Noda

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photograph byKanako Nagashima

posted2010/07/30 10:30

10年越しに叶えた2つの夢。フリーダイバー・篠宮龍三、闘いの軌跡。~日本で世界選手権、初開催~<Number Web> photograph by Kanako Nagashima

上々のタイムを出した大島が水面で漏らしてしまった声。

 第2種目のスタティックは、プールで息を止める長さを競う。第1競技者として競技を行った篠宮は、目標としていた数値よりも約30秒短い、6分58秒で競技を終えた。第2競技者の大島は、目標の6分30秒を越え6分43秒で成功。タイムは上々だったが、水面に出てからのサーフェース・プロトコル(以下、SP)と呼ばれる動作中に、若干の乱れがあった。競技では、水面に出たらマスクを外し、人差し指と親指で輪を作って「オーケー」サインを出し、「アイム、オーケー」とジャッジに向かって言わなければならない。しかし、大島は、マスクを外してから「アウ」と声が漏れてしまったのだ。

 それを間近で見ていた篠宮は内心慌てた。ジャッジにSPが不完全と見なされてレッドカードを喰らってしまうかもしれない。そうなればポイントは0点、メダルにはどうがんばっても手が届かなくなる。篠宮が「よぉーしナイス、俊、オッケーオッケー!」とその場をもり立てたのも功を奏したか、結果的にはホワイトカードの判定が出て記録は無事認定された。

「上がれ!」と叫ぶ篠宮の声で濱崎は水面に上がった。

 問題は、篠宮が調子を心配している第3競技者の濱崎だった。

 篠宮には、メダルをどうしても取りたいという焦りがあったのかもしれない。濱崎が海洋競技よりプール競技が得意なことはわかっていたが、彼が競技を開始してから6分20秒過ぎに激しく痙攣しているのを見て、たまらずプールの上から大声で叫んだ。

「上がれ上がれ! もういいから上がれ!!」

 濱崎のベスト公式記録は6分50秒。チームとしての目標は大島と同じく6分30秒だったが、濱崎自身は7分越えを狙っていた。調子も悪くない。大きく痙攣するのは、身体的な癖なのだという。篠宮の大声が耳に入った濱崎は、6分51秒で水面に上がった。

 濱崎によると、これまでの練習では7分を越えており、試合でもいける感触があった。だが篠宮の声で集中力が途絶えてしまったというのが、濱崎の言い分だ。篠宮にしてみれば、チーム戦なのだから個人の感覚に頼って記録を伸ばすのではなく、チームとして決めた分数がクリアできれば十分だ。無理をして失神すれば、ポイントが0になってしまう。それでは意味がないではないか。

【次ページ】 オーガナイザーとアスリート、一人二役のジレンマ。

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篠宮龍三

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