F1ピットストップBACK NUMBER
チームオーダーは是か非か――。
F1マレーシアGPで起きた2つの事件。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2013/03/25 11:30
ポディアムの上でファンの歓声に応えるベッテルと、2位を手放しで喜べない状況に複雑な思いを抱くことになったウェバー(左)。
「マルチ21で走れ」
レース終盤、最後のピットストップを終えてトップを走行するマーク・ウェバーにレッドブルから無線が飛んだ。これはエンジンセーブする指示であると同時にタイヤを労って、そのままのポジションでフィニッシュしろ、という合図でもある。
それを聞いたウェバーは幾分ペースを落とすが、2番手でウェバーを追うセバスチャン・ベッテルはペースを落とすどころか自己ベストタイムを叩き出して、トップの座を窺おうとする。
そして、46周目、ベッテルがウェバーをオーバーテイク。
これが2013年マレーシアGPで起きた「ひとつめの事件」である。
「時計の針を戻せるなら、もう一度レースをやり直したい」
何も知らないスタンドの観客はトップが交代するという逆転劇に沸いたが、状況を飲み込めないウェバーの心は冷めていた。
冷めていたのは、ウェバーだけではない。
チームオーダーを無視して勝ち取ったことを悟ったベッテルにも、表彰台では笑顔はなかった。
「僕は指示を受けたのに、それを無視した。だから、いまはマークとチームに謝罪したい。そして、もし時計の針を戻すことができるなら、もう一度レースをやり直したい。
ただ、ひとつだけ言わせてほしい。それはチームからの指示がそんなに深刻なものだったとは思っていなかったということなんだ。だって、いままでも僕たちは何度か競り合ってレースしてきたからね。でも、今年のタイヤはどれだけ持つかわからない。だから、あのシチュエーションではチームの指示に従うべきだった。
あのまま競り合っていたら、僕たちは8位と9位でフィニッシュしていてもおかしくなかったと聞かされた。もう少しでレースを台無しにするところだった。だから、正直いまはこの勝利を喜ぶことはできない」
このようにチームオーダーが無視されて、後味が悪くなった優勝として記憶に残るのは、1982年のサンマリノGPである。