REVERSE ANGLEBACK NUMBER
内田博幸と馬券の夢を乗せた金の船。
大胆な後方一気で魅せた、有馬記念。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2012/12/27 10:30
内田とゴールドシップは共同通信杯で初めてコンビを組んでから6戦5勝、うちGI3勝を誇る。芦毛馬の有馬記念制覇は1990年のオグリキャップ以来、2頭目。
かなりセオリーに反した乗り方だった最後のスパート。
大きく出遅れたルーラーシップを前に行かせたのは、先導役を務めさせようという作戦だったのだ。途中までロスなく進めば、あとは爆発力のある追い込みで十分に前をとらえられるという計算だった。
向こう正面なかばまで後ろをトコトコ付いて行き、残り800mの標識から外に持ち出してグングンとポジションをあげる。いわゆるマクリだ。しかし、この位置からマクリで脚を使うと、最後に急な坂のある中山コースでは止まってしまう危険がある。残り800mからマクリ気味にスパートして勝ってしまおうというのは、かなりセオリーに反した乗り方といえる。
ゴールドシップに騎乗した時、より大胆になる手綱捌き。
ところが、この戦法でも、ゴールドシップは全くへこたれなかった。一番外を通る距離のロスもなんのそので、直線では内ラチ沿いから逃げ込みをはかるエイシンフラッシュをなんなくとらえ、追い込んでくるオーシャンブルー、ルーラーシップを寄せつけず押し切った。
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「あんなレース運びで勝った馬、いたっけ?」
「どれぐらい長く脚をつかったんだ」
レースのあとの検量室では記者たちがそんな話をしていた。
中山で内田とゴールドシップが見ている者を驚かせたのは有馬記念が最初ではない。8カ月前の皐月賞もそうだった。内側の馬場が荒れていて、そこを通ったら伸び脚が止まるといわれていたインコースのラチ沿いをただ1頭突き抜けて圧勝した。信じられないような馬のパワーも目をひいたが、内田の大胆なコース選択もファンを驚かせ、呆れさせた。
もともと思い切りのよい騎乗をする内田だが、ゴールドシップに乗るときは特にその大胆さに磨きがかかる。大レースで人気を背負うような馬に乗ると、普通は手堅く、セオリー通りに乗りたがるものだ。内田もほかの大レースではつねに大胆不敵、人を人とも思わずといったレース運びではない。
なぜ、ゴールドシップに乗ったときに限って、大胆で見ようによっては傍若無人な乗り方になるのだろう。