好きな人の前でだけは大胆になる。絶滅危惧種の女子高生みたいだが、有馬記念の内田博幸を見てそんなことを連想した。

　今年の有馬記念は内田が騎乗するゴールドシップが勝った。1番人気に応えての勝利だから順当な結果ともいえる。だが、結果は順当でもレースぶりは大胆というか、常識破りの痛快なものだった。

　ゲートが開くと、まず2番人気のルーラーシップが大きく出遅れた。ゲートの中で立ち上がる、まるで西部劇の見せ場みたいな失態を演じて、前の馬から5馬身以上も遅れる最後方からのレースになった。ところがゴールドシップは、1周目のスタンド前に差し掛かったあたりでは、その大出遅れのルーラーシップに抜かれて、一番後ろからレースを進めることになった。ペースは平均的だし、直線の短い中山コースでは、このポジションから追い込んでいくのは簡単ではない。

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　ディープインパクトが国内で唯一敗れたのは2005年の有馬記念だったが、これは先行集団から先に抜け出したハーツクライを、後方から追い上げたもののつかまえ損ねての敗北だった。あのディープインパクトでも後方一気の追い込みで勝つのはむずかしいのが有馬記念なのだ。

「これまでボクが乗った中では最悪のスタートでした」

　ところが内田はこの日のゴールドシップのポジションにもなんの不安も持っていなかったようだ。

「スタートがよければ先行してもいいと思っていましたが、これまでボクが乗った中では最悪のスタートでした。こうなってはしかたがない。とにかく道中はロスなく行こう。ルーラーシップが内を回りながら追い上げていったので、この馬についていけば、ロスなく内を回れるかなと思って」

【次ページ】　かなりセオリーに反した乗り方だった最後のスパート。