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<“冒険案内人”近藤謙司さんに聞く> 「初心者がエベレストに登る方法」
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byAdventure Guides
posted2012/08/31 06:01
時間と費用については、やはり相応の覚悟が必要。
時間と費用については相応の覚悟が必要だ。日程はほぼ50日。休暇をとるのがまず一苦労になる。費用は、登山申請料や渡航費も含めたトータルで、中国側からだと約650万円、ネパール側で約750万円。高いと感じるか、安いと感じるかは価値観次第だろう。
「普通の会社員でもベンツに乗っている人や、ホストクラブに何百万円もつぎこむ人がいますよね。それを考えれば、手が届かない金額じゃないと思う。若い頃から独力で七大陸最高峰登頂をめざしている山田公史郎くんという青年がいて、20代で五大陸まで成功した後、エベレストで行き詰まって僕のところに相談に来たんです。費用を説明したら、『じゃあ働きます』と言って、10年かけて650万円貯めたんですよ。すごいと思いませんか?」
彼はエベレストの後も貯金を続け、今年とうとう最後の南極へ旅立つそうだ。
「なんとなくお金持ちがやるスポーツというイメージがあるかもしれませんけど、彼のような普通の人がコツコツお金を貯め、休みを作って夢に挑戦するっていう姿が、公募隊参加者の理想像ですね」
楽しんで登るために必要なのは、大きな努力と自分の殻を破ること。
もはやエベレストは「楽しむために行く山」になったと言ってもいいのだろうか。
「楽しんでいただきたいと思ってます。ただ、普通の登山とはちょっと次元が違うので、大きな努力をして、自分の殻を破らないと、なかなか登頂できないのも確かです。でも、専門技術や知識は僕らに任せてもらって、登ることだけに集中してもらえば大丈夫です」
最終的にいちばん大切なのは、やっぱり「行きたい」という意思だという。
「私なんかには行けない、と思って限界を作っているのは、自分自身なんですよね。だから、僕は『夢は持ちましょうよ』と言うんです。川崎さんも山田くんもそうですけど、夢を持って冒険に出ようとしている人のそばにいると、こっちも活性化されて、何だかうれしくなってくるんですよね。だから、僕にとってガイドという仕事は、ただ技術を教えて難しいところに連れて行くだけじゃなくて、人ありきなんです。一緒に登った人がいい笑顔を見せてくれるのが、僕の生き甲斐のひとつなんですよ」
近藤さんは来年の春、再びエベレスト公募隊を組む予定だ。興味のある人は、今から始めてもけっして遅くはない。来年が無理でも、また次がある。エベレストはいつでもそこにあり、夢を見ることも自由なのだから。
●初心者がエベレストに登るための絶対条件●
【POINT1】
まずは6000m峰を経験すること。
【POINT2】
高所順応できる体力、総合的なスキルと協調性。
【POINT3】
650~750万円の費用と50日間の休暇。