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<私が山に登る理由> 東大卒の登山ガイド・山田淳 「『なぜ人は山に登らないのか』僕の関心はそこにありました」 

text by

萱原正嗣

萱原正嗣Masatugu Kayahara

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2012/07/12 06:00

<私が山に登る理由> 東大卒の登山ガイド・山田淳 「『なぜ人は山に登らないのか』僕の関心はそこにありました」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

山業界を徹底研究して辿りついた一つの結論――。

 だが、会社を辞めたときに事業計画と呼べるものはなかった。ミッションを実現するために何をすべきか。近所のカフェで『レジャー白書』を穴の開くほど読み、業界研究に徹底的に取り組んだ。そして、一つの結論に辿り着く。

 登山グッズを安く提供する――。

「十分な装備があれば、安全に山を楽しむことができます。ただ、装備を一式揃えるには6~7万円かかる。そんな大金をポンと出せる人はなかなかいません。そのコストの高さが、軽装で山に登る、あるいは、人を山から遠ざける要因になっていました」

 その思いから日本初の登山道具宅配レンタルサービス「やまどうぐレンタル屋」をスタートさせた。ネットか電話で予約し、サイズが合わない場合に備えて使用日3日前に配送。セットから単品まで多彩なメニューが用意され、コンビニからの返送も可能など、借り手への配慮は細やかだ。昨年には、登山道具の購入希望者のために、オンラインショップ「やまっ子本店」もオープンさせている。

 そして「道具」と並んで重視したのが「情報」だった。

「山のことを知らない人が山に行かないのは当然です。フリーペーパー『山歩みち』で情報を届け、旅行会社と登山イベントを企画するなど、“きっかけ”づくりにも取り組んでいます」

「人工物に囲まれた今の社会の方が、異常なんだと思います」

 山田が、人を山に登らせることにこだわるのはなぜか。

「僕の初登山は、中学1年で登った屋久島の宮之浦岳です。360度、見渡す限りの自然に圧倒されたあの感覚が、いまも変わらぬ僕の原点です。でも、人類はもともと屋久島みたいな自然のなかで暮らしていました。それと比べると、人工物に囲まれた今の社会の方が異常なんだと思います。とすると、都会で暮らす現代人も、たまには自然に帰りたくなるはず。だから僕は、『なぜ人は山に登るのか』ではなく、『なぜ人は山に行かないのか』を考えました」

 初年度に約2000人だったレンタルサービス利用者は、翌'11年には年間1万人を超え、3年目の今年は3万人を超える見込みだ。2000部から始めた『山歩みち』も、いまでは10万部を数えている。

「いま考えると、山に行かない理由を考えた、その論の立て方がよかったんだと思います。まだ発展途上ですけど、経営でも高みを目指して、登山業界の裾野を広げていきたいですね」

 頂に挑み続けてきた山田が、山の世界の裾野に目を向けている。「山」を広めていく挑戦は、まだ始まったばかりだ。

              ◇    ◇    ◇

◆山田淳さんへのQ&A
1979年5月8日、兵庫県生まれ。東大在学中の'02年に七大陸最高峰登頂の最年少記録(当時)を樹立。マッキンゼー勤務を経て'10年にフィールド&マウンテンを設立。

Q1 登山歴は?
A1 21年
中学で「運動部で競争がない」という理由でワンダーフォーゲル部に入ってから。

Q2 登山の頻度は?
A2 約30回/年
ツアーガイドの仕事を含めて。学生時代は富士山を1日で2往復していたことも。

Q3 初めて登った山は?
A3 屋久島宮之浦岳
中1のときに部活で登りました。自然のスケールに「スゲー!」と感動しました。

Q4 あなたのこだわりは?
A4 七大陸最高峰を共にしたザック
道具にこだわりはないけど、これだけは思い入れが。最近壊れてしまったんです。

Q5 あなたの「一名山」は?
A5 屋久島宮之浦岳
難しいけど、最初に登った山が一番ですね。もう10回弱は足を運んでいますが、本当に水が澄んでる。雨が地中に染み込み、川となって海に流れ、また雨になるという「循環」を身体で感じるんですよ。

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