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“背負った”斎藤佑樹はどこまで強い?
条件が整った田中将大との再対決。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/04/11 12:40
最近はあまり聞かれなくなった“ハンカチ世代”という呼び声。同い年には広島の前田健太もおり、先日のノーヒットノーランの記録に対して斎藤は「自分もいつか完璧に抑える試合で終わってみたいですね。同期にそういう選手がいるのは刺激になります」とコメントしている。
斎藤を崖から突き落とした栗山監督。
それなりの舞台を整えつつも、さあここからだという場面、本当の勝負どころでは、あっさり代えてしまう。つまり、真に成長が期待できる場面だけ、奪ってしまっていたのだ。
さまざまなチーム事情もあっただろうし、それはそれで斎藤のことを大事に思えばこその配慮だったのかもしれないが、少なからず、当時の早大のチーム方針は「過保護」な親を見ているようなところがあった。
だが、日本ハムの監督、栗山英樹はその逆だった。
開幕を任せるという英断を下し、斎藤を崖から突き落とした。そして、斎藤は見事にその崖を這い上がってきた。大学時代では見たことのない姿だった。
田中と死闘を繰り広げた6年前と同じ表情をしていた斎藤。
試合後のお立ち台で斎藤は、開口一番、心なしか目を潤ませつつ「頭が真っ白です」とコメントした。
自分の中に眠っていた未知の力と遭遇し、そんな自分に感動している顔だった。
あれは、まさに6年前の夏、甲子園の決勝戦で田中擁する駒大苫小牧と2日間に渡る死闘を繰り広げたときの顔そのものだった。
あのときの早実はまさに斎藤が生命線だった。斎藤は自分にかけられるものが大きければ大きいほどそれを力に変えることができる。やはり、背負うものがあってこその斎藤なのだ。
もちろんここ数年、実質的にチームを支え続けてきた田中とは、経験も実績もまだまだ雲泥の差がある。
だが、ひとまず舞台は整った。互いにチームを背負いながら投げる以上、今年は「対決」と言っても許されるだろう。
6年前の高校時代の話を持ち出し、何を今さら、という向きもあるかもしれないが、当時の甲子園での試合を観ていた者にとっては、2人の対戦はやはり感慨深いものがある。
それにしても、今回はやけに周囲が静かだ。入団時も、昨年のマー佑対決のときも、あんなに盛り上がっていたのに。
しかし、この静けさがいい。うわべだけではないという雰囲気がある。