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特別な2011年をともに戦い抜いた、
日本とF1との揺るぎない「絆」。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/12/27 10:30
オーストラリアGPにて東日本大震災への支援の呼びかけをしたF1ドライバーたち。可夢偉の所属するザウバーをはじめとして、フェラーリ、メルセデス、ウイリアムズなど、全てのチームとドライバーたちが日本へのメッセージを送った
だれにとっても特別な一年が、いま終わりを告げようとしている。それは震災に遭った日本人にとってだけではない。F1も同じである。
3月11日、F1はスペイン・バルセロナで開幕前の最後のテストを行っていた。
朝9時から走行が始まるウインターテスト。走行開始前にもかかわらず、サーキットの雰囲気がいつもと違う緊張感が漂っていた。あちこちで集団ができ、真剣な表情で日本から流れてくるニュースに釘付けになっていたからだ。
プレスルームではラップタイムが表示されるモニターのいくつかが、ニュース映像に切り替えられていた。開幕に向けて、最後の仕上げが行われる予定となっていたこの日は、多くのチームがレースシミュレーションを行っていた。小林可夢偉もそのうちの一人で、グランプリを想定して、66周を連続走行するプログラムが組まれていた。
ハンドルを握りながらも可夢偉の心は日本にあった。
ランチタイムにザウバーのモーターホームを覗くと、携帯電話を操作している可夢偉がいた。通常であれば、これから始まるレースシミュレーションに向けてリラックスしたり、エンジニアと確認作業をしている時間。震災直後、日本は電話がつながらない状況となっていたため、可夢偉はずっと携帯電話をいじって情報収集を行っていたのである。8歳のときに阪神大震災を経験している可夢偉には、それがどれだけ深刻なものかを直感していたに違いない。しかし、詳しい情報が入手できないまま、可夢偉はレースシミュレーションに臨むしかなかった。
レースシミュレーションという大事な一日を終えた後の可夢偉のコメントには、その日の心境が込められていた。
「今日は予選に向けた練習と、予定していたレースシミュレーションを行い、無事終了しました。でも、いまは日本の皆さんのことで頭がいっぱいです」
メルボルンから送られた「がんばろう、日本」の激励。
こういう思いでテストを走っていたのは、可夢偉だけではない。ルイス・ハミルトン、ジェンソン・バトン、フェルナンド・アロンソら、歴代のチャンピオンたちも、スペイン・バルセロナから日本へ向けて、日本を気遣い、励ましのメッセージを発していた。
震災から2週間後。開幕戦の舞台となったオーストラリア・メルボルンでは、さらに強いメッセージが日本へ発信された。全チーム、全ドライバーがヘルメットやマシンなどにステッカーを貼ったり、特別なデザインを施してグランプリを走るのである。さらに日曜日のレース前には、「がんばろう、日本」と日本語で書かれたボードを前にして集合写真を撮影。犠牲者に1分間の黙祷を捧げてレースに臨んだ。