濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
『SRC』両国大会が露呈した
物語無き“大会”の限界。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/03/11 10:30
『SRC』は6月20日に行なわれる次回大会を含めて、今年4~5回の興行を予定。K-1との交流、対抗戦も視野に入れているという
もし、そこに“物語”があったなら――。
『SRC12』が“大会”ではなく“プロのイベント”として成立するためには、世界観を共有させる仕掛け、言い換えれば観客に“見方”をプレゼンテーションすることが必要だったのではないか。
この日、休憩前のリング上に廣田瑞人が登場し、ライト級タイトルを返上した。大晦日の『Dynamite!!』で行なわれたDREAMとの対抗戦で青木真也に敗れた責任と、腕を骨折して長期欠場に追い込まれ防衛戦が不可能なことから、自ら虎の子のベルトを手放す決心をしたのだ。
もし、DREAMの選手が出場するか、大会全体が“打倒DREAM”というテーマを打ち出していれば。あるいはタイトル返上とともに新王者決定トーナメントが開催されていれば。それだけで観客の見方はだいぶ違っていただろう。
また試合開始10秒で鹿又智成をKOしたマルロン・サンドロの試合が“フェザー級タイトル挑戦権査定試合”と銘打たれていれば、その勝利のインパクトだけでなく、意味も観客と共有できていたはずだ。しかし実際には、休憩明けに王者の金原正徳がサンドロを指名することでタイトルマッチの機運が高まるという展開に。“自然な成り行き”以上の盛り上がりにはならなかったのである。
どんな流れで、このマッチメイクに至ったのか。これからどんな展開が待ち構えているのか。試合と試合、大会と大会をつなぐ物語を主催者側が自覚的に見せていかなければ、歴史の浅いジャンルではプロのイベントは成立しないのだ。“ショー”は“スポーツ”の対義語ではない。