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“絶対女王”辻結花に完勝!
V一が女子格闘技の歴史を変えた日。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2010/02/28 08:00

“絶対女王”辻結花に完勝! V一が女子格闘技の歴史を変えた日。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

試合開始から攻めの姿勢を崩さず、最後は裸絞めでタップを奪ったV一。リングネームは得意技「V1アームロック」から付けられた

 1ラウンド1分14秒、V一(ヴィーはじめ)の裸絞めによって辻結花がタップした瞬間は、日本の女子総合格闘技史に永遠に残り続けるだろう。

 2月11日、ディファ有明で行なわれた『VALKYRIE 04』のメインイベント、女子フェザー級チャンピオンシップで両者は対戦した。

 王者・辻はデビュー以来、24戦して負けはわずかに一つ。その負けも7年前に外国人相手に喫したもので、後に雪辱を果たしている。もう一つの女子総合イベント『JEWELS』の藤井惠と並ぶ、誰もが認める“絶対女王”だった。

 対する挑戦者・Vはキャリア7戦の新鋭。一昨年11月に辻と対戦した際には、何度となくタックルでテイクダウンを許し、パウンドを浴びて判定負けを喫している。吉田沙保里や伊調姉妹を輩出した中京女子大学レスリング部で鍛えられた辻のタックルは、このジャンルにおいてあまりにも突出していた。

 今回のリマッチにしてタイトルマッチも、当然ながら下馬評では辻が優位だった。辻を脅かす存在が登場することを、現実的に考えられる人間は多くなかったのだ。Vによれば、こう言って観戦の誘いを断った知人もいたそうだ。

「あなたが負けるところは見たくないから」

 Vを応援している人間でさえ、彼女が勝つ姿を想像できなかったのである。

“動き続けた”Vの自信に満ちた闘い。

 だが、Vが勝つなら、あるいは辻が負けるなら、このタイミングしかなかったのも確かだ。辻は現在、35歳。負傷によるブランクがあり、今回は約10カ月ぶりの試合だった。一方のVは27歳、キャリアを考えれば伸び盛りと言っていい。昨年は4月と7月に行なわれた挑戦者決定トーナメントを勝ち抜き、8月と11月には立ち技総合格闘技(打撃に加え投げ、スタンドでの絞め・関節技が認められる)シュートボクシングにも参戦している。

 伸び盛りの選手がコンスタントに試合経験を積めば、成長はさらに加速する。総合とは違う競技に挑んだことで、ファイトスタイルの幅も広がったはずだ。

 この1年近く、動きを止めざるをえなかった辻と、動き続けてきたV。その差は試合の中ではっきりと表れた。Vは、辻の絶対的な武器であるタックルに対してまったく臆せずに闘ってみせたのだ。

 最初のタックルにはヒザ蹴りを合わせ、テイクダウンを許しても金網を背負ってすぐに立ち上がる。さらにカウンターのタックルを恐れることなくパンチを放ち、組み手争いの中で瞬間的にヒジ関節を極(き)めにいく場面もあった。スタンドでの関節技は、Vがシュートボクシング用に磨いてきたものだった。

 フィニッシュは、タックルを切ると同時にバックに回り込んでのスリーパーホールド。下半身も固められて身動きの取れない辻は、タップする以外に失神から逃れる術がなかった。「タックルを切った後の動きがポイントだと思ってました」というコメント通りの、王座交代劇だった。

 かつて煮え湯を飲まされた辻のタックルに、Vは真正面から対抗することで勝利を掴んだ。それを可能にしたのは、昨年からの連戦で掴んだ自信だろう。

「前回ほど硬くはならなかったですね。相手の動きを見てしまう前に、自分から動けました」

 試合後のVは、そう語っている。

【次ページ】 試合を見守った女子選手たち、その涙の意味。

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