濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
格闘技の“求心力”は今も失われず。
「ストーリーの共有」を見た3大会。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2011/07/22 10:30
DREAMフェザー級タイトル防衛に成功した高谷裕之(写真右)は試合後、花道でファンとの写真撮影やサインに笑顔で応じていた。対する、宮田和幸は試合後、「テイクダウンは行こうと思えば行けた」と敗れてなお、強気なコメントを口にした
7月16日に開催されたDREAM有明コロシアム大会のメインイベント、その試合内容を要約すると、どうしても味気ないものになってしまう。
フェザー級王者・高谷裕之がパンチで前に出る。挑戦者・宮田和幸は打撃を返しながら隙を突いてタックル。高谷はそれをディフェンスし、攻防が止まったところでレフェリーがブレイクする。試合の大半は、その繰り返しだった。単調といえば単調な試合である。結果は判定2-1で高谷の勝利。鮮やかな一本、派手なKOでの決着ではなかった。
だが、ファンはそんな闘いを充分に堪能していた。会場に弛緩した雰囲気などなかったと断言できる。
なぜなら、ファンは高谷と宮田が何者であるかを知っていたからだ。言い換えれば、“ストーリーの共有”ができていたのである。
「ストリート対アスリート」というわかりやすい構図。
高谷はストリートのケンカ屋から格闘家になった。打撃を武器に一昨年のフェザー級トーナメントで準優勝し、昨年大晦日に戴冠。そのパンチをクリーンヒットさせれば、倒せない相手はいない。
一方の宮田はレスリングでオリンピック出場を果たした一流アスリートだ。デビュー直後は総合格闘技への対応に苦しんだが、フェザー級に階級を落とすと6連勝。ひとたび組みつけば、テイクダウンできない相手はいない。
彼らがたどってきた道のりがどんなものであったか、どんなファイトスタイルで勝ってきたのか。それを知っているから、ファンは細かい動きの一つひとつを見逃そうとしなかった。打撃を得意とする高谷にジャブをヒットさせる宮田に驚き、宮田のタックルをことごとくクリアする高谷に興奮する。予備知識なしでは凡戦に見える試合も、ストーリーが共有されていれば名勝負になるということだ。
ファンだからこそ理解できる、攻防戦の意味。
18日の修斗後楽園ホール大会では、札止めの大観衆の前で朴光哲と弘中邦佳が世界ウェルター級王座決定戦を行なっている(弘中が判定勝利)。この試合のハイライトは、グラウンドで劣勢だった朴が必死の形相で立ち上がり、弘中を突き放して得意とするパンチの攻防に戻したシーンだ。派手な技が決まったわけではなく、局面が変わったというだけ。それでもファンは、ストライカーの朴がグラップラーである弘中の寝技をしのぎきることの意味を知っていた。