MLB Column from USABACK NUMBER
アメリカが未来永劫WBCで
優勝できない理由。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2009/03/27 18:56
WBCで米国が優勝できない第二の理由は、開催時期がシーズン開幕前に設定されていることにある。というのも、メジャーの選手にとって、WBCが開催される2−3月は、長丁場のシーズンに備えるための「調整・準備」期間に他ならず、WBCは、ベストの状態で真剣勝負に挑む場としてではなく、レギュラーシーズンへの準備をもかねた「調整」の場としてとらえられているからである。
日本や韓国やキューバの場合、「何が何でも勝たなければならない」という意気込みの下、WBCにあわせて選手の状態がベストになるよう、長時間かけて準備に取り組んだが、米国の場合の準備は、MLBチームのキャンプ開始時期を例年より2週早めただけに過ぎず、選手の「仕上がり」の差は歴然としていた。チッパー・ジョーンズやデレク・ジーターは、米国選手の中ではWBCに極めて熱心なことで知られているが、その彼らがスケジュールについて「試合間隔が空きすぎているので、調整にならない」と文句を言っている一事を見ても、WBCが「調整」の場としてとらえられている現実がよくわかるのではないだろうか。
さらに、先発投手の場合、メジャーでの調整法は、エキジビション・ゲームに登板する度に投球数を段階的に増やすことで、開幕に向けて肩を作っていくというやり方が伝統となっている。WBCの投球数制限も、このメジャーの伝統的調整法に由来するルールなのだが、たとえルール内の投球数であっても、メジャーの感覚からすると「多すぎ」たり、「時期的に早すぎ」たりする投球数であるため、参加を尻込みする投手が多いのである。「短期決戦では投手力が決め手となる」のは常識中の常識だが、「最高の力を持つ投手ばかりを集めてベストの状態で出してくる」日本に、「最高とは言えない投手が調整段階で出てくる」米国がかなうはずがないのである。
というわけで、「WBCが今後も現在の形式で続く限り、米国が優勝することは未来永劫あり得ない」と、私は断言する。もっとも、もともとMLB機構と選手組合とがWBCを企画した目的は「新規市場の開拓=ビジネス・チャンスの拡大」にあったのであり、米国野球の強さを世界に見せつけることにあったのではなかった。
そういう意味で、日本、韓国、ラテン・アメリカのファンが熱狂してくれたのだから、WBCは大成功だったといってよいだろう。米国が勝てなかったからといってカリカリする人はいないし、逆に、主催者は「米国が強くない方が盛り上がる」ことに気がついているのではないのだろうか?