レアル・マドリーの真実BACK NUMBER
オフィシャル・サイトの“お遊び”を笑おう。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byGetty YUTAKA/AFLO SPORT
posted2005/06/21 00:00
レアル・マドリーもなかなかやるもんだ。
レアル側の責任者である報道ジェネラルディレクターのアントニオ・ガルシア氏は、ラジオ番組のインタビューにこう答えた。
「憤慨しているプレスもあるようだ。ユーモアが足りない。遊びじゃないか」、「怒らせるつもりはない。知的に笑ってもらいたい」。
話題の的は、レアル・マドリーのオフィシャル・サイトが14日に開いたばかりのあるセクション。日本語ウェッブでは『報道陣の契約選手』という妙なタイトルが付けられているが、要は、プレスが獲得すると報じた選手一覧である。
見せ方がまた凝っている。
コンピューターグラフィックスのグラウンドに、システム4−1−3−2で星マークを配置。各ポジションにカーソルを移動すると、選手名と顔写真、報道したメディア、チーム名がずらりと出てくる。左フォワードを指すと、『ロビーニョ アス紙 サントス』、『ティエリ・アンリ アス紙/ラジオ・コペ アーセナル』という具合である。ピカピカ点滅しているベンチを指すと、『ファビオ・カペッロ マルカ紙/ラジオ・セール ユベントス』と、芸が細かい。
前回のレポート、『補強とは、スターを集めることではない。』で、ルシェンブルゴにシステム4−1−3−2を変える理由はないと書いたが、そういう筋はきちんと通している。その上でのお遊びなのだ。
図に添えられている、真面目くさったリード文も粋である。『(このセクションのために)我われは資料室にこもり、さらに最新の状況も見逃さず注意を払っていくつもりだ』とし、『すべての憶測が反映される、十分なスペースがあることを期待する』と皮肉を効かせて締めくくっている。
『最新の状況も見逃さず』うんぬんは冗談ではない。
セクション発足当時22人だった『推定契約人数』が、今日(16日)現在は25名に増えているし、冒頭のラジオ番組中、「そんな報道をした覚えはない」と抗議されたイブラヒモビッチの名は、ちゃんと削除されている。情報の更新は頻繁だ。連日連夜、国内外の新聞、ラジオ、テレビをチェックするスタッフの苦労がしのばれる。遊びを本気でやってるからこそ、面白いのだ。
ガルシア氏はエル・パイス紙のインタビューで、「オフィシャル・サイトの内容が、常にオフィシャル(公式見解)でなきゃいけない理由はない」と言い放っている。その意気や良し、である。
たとえば、カペッロ新監督獲得を“スクープした”マルカ紙やラジオ・セールは、恥をかかされているように感じるかもしれないが、目くじらを立てることはない。憶測記事や“飛ばし”に一喜一憂するファン、そしてレアル・マドリーへの“迷惑料”だ。抗議声明をオフィシャル・サイトに掲載されるより、よっぽど気が利いているではないか。
が、この企画、レアル・マドリーのオリジナルではない。
マンチェスター・ユナイテッドのオフィシャル・サイトにも同じ趣旨のセクションがある。こちらは加入情報だけではなく放出情報まで載っている。契約金額やネタ元のリンクが貼ってある点は買うが、一覧表が素っ気なく面白みではレアル・マドリーに軍配が上がる。
この表をよく見ると、フィーゴはともかく、ビジャ(サラゴサからバレンシアへ移籍)やバプティスタ(セビージャ)、エトー(バルセロナ)の名前が挙がっている。え、そんな話あったの?イギリスのプレスもなかなか飛ばしてくれる。こういう本国にも伝わってこない噂を収集してくれるのはありがたい。マンチェスターへも苦情や抗議があるのかどうかは知らないが。
私はこれまで、レアル・マドリーのオフィシャル・サイトを必ずしも評価していなかった。
なぜなら、日本人が知りたい情報−チケットの値段、座席表、公開練習の日時、練習場へのアクセス、オフィシャルショップの所在地などが無いか、あってもその一部しか掲載されないからだ(もっとも、日本語ページがあるだけで感謝すべきかもしれないが)。この点、ライバル、バルセロナの日本語ページの方が充実しているし、スペイン語ではあるが、バレンシア(一部だけが日本語)、セビージャ、アスレティック・ビルバオ、デポルティーボ・デ・ラ・コルーニャ、レアル・ソシエダのサイトでは、試合観戦、練習見学、買い物に関する情報のほとんどすべてが手に入る。
とはいえ、今回はそんな不満を忘れさせてくれるヒット。お堅いイメージのあるレアル・マドリーにも、ユーモアを解する人がいるのである。
みなさんも、このまま行けば銀河系が何個になるのか、笑いつつ見守ってほしい。