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大家友和のチャリティーツアー 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

PROFILE

photograph byField of Dreams

posted2005/09/07 00:00

大家友和のチャリティーツアー<Number Web> photograph by Field of Dreams

 9月の声を聞き、いよいよマイナーリーグがシーズンの幕を降ろそうとしている。現在このコラムをオハイオ州コロンバスのクーパー・フィールド記者席で作成している。いまだヤンキース昇格を果たしていない野茂英雄投手がどのように今シーズンを締めくくるのか、最後まで見届けるためだ。前々回に紹介したジェレッド・ウィーバー投手も、エンジェルスが熾烈なプレーオフ争いを続ける事情もあり、メジャー昇格を見送られたようで、個人的にはやや寂しい秋を迎えることになりそうだ。

 さて、今回はシーズン中にも関わらず、野球選手の公共活動について取り上げてみたい。8月下旬のことだが、ブルワーズの大家友和投手が今年もチャリティツアーを主催し、日本から計15人の子供たちをアメリカに招待した。実は今年で5回目となるのだが、シーズン中ということで他の取材との兼ね合いもあり、一昨年ツアー参加者がドジャー・スタジアムを訪れた際、少し取材させてもらった程度だった。だが今年はタイミング良く大家投手の登板と重なり、丸一日ツアーに同行することができた。

 率直に言って、これまできちんと取材できなかった自分を悔やんだほど、ツアーは素晴らしいものだった。初対面ながらツアーに参加した子供たちと真正面に向き合おうとする大家投手の姿勢は、実に共感できるものだった。

 ツアー参加者は、参加希望者から事前に『自分の夢』をテーマに作文を書かせ、それを元に面接を行い選考されている。そのほとんどは児童福祉施設に身を寄せる子供たちだ。

 「自分自身が母子家庭で育ち、ずっと助けられてきた。今度は自分が何か与えられたらと思いました」

 「子供たちの人生を左右するとか、大それたことは思っていないです。彼らが成長していく上で、何らかの役に立てれば嬉しいです」

 恵まれない境遇で少年時代を過ごした大家投手だからこそ、ツアーに参加している子供たちが夢を持ち続ける困難さを十分に理解している。そんな彼らに自己啓発の一助になればという思いで、日本とはまったく違った風土、文化を見せようとツアーを主催し続けている。

 ツアーの行き先は、ツアー開催時期の大家投手の居場所に合わせ毎年異なっているが、今年はミルウォーキーとなった。今回のツアーでは、NFLバッカニアーズでチアリーダーを務める小島智子さんを招きチア教室を開催するなど、大家投手以外にも異国の地で活躍する日本人に触れる機会を与えている。小島さんは始終ツアーに帯同し、子供たちの面倒をみていた。またブルワーズの本拠地ミラーパークが施設内にリトルリーグ用のミニ球場を所有していることもあり、現地の子供たちとソフトボールを楽しむという国際交流の場も用意されていた。

 しかしツアー最大の目的は、大家投手と子供たちの交流に他ならない。2度にわたり質疑応答の場があったのだが、時にはジョークを交えながら子供たちの質問に一つ一つ丁寧に答えていく大家投手が印象的だった。報道陣の前ではあまり見せない大家投手の素顔を垣間見られたような気がする。

 ツアー開催中、ウェブ上で子供たちと小島さんの日記が毎日更新されていたが、その中で小島さんが指摘しているように、子供たちが日々変わっていく様子が窺い知れる。特に大家投手と過ごした時間が、子供たちの財産になっているようだ。

 「野球に留まらず、人生として自分の財産になっている。どこまでもいきたい気持ちはあるし、自分ができる限り何らかのことをしていきたいと思ってます」

 もちろん日本でもアスリートたちが慈善活動を行うことが徐々に浸透してきているが、大家投手のように個人で活動しているのは珍しいケースだろう。もちろんアメリカではアスリートが個人で基金を設立するなど、積極的な活動が目立つ。現在も自転車のランス・アームストロング選手がガン撲滅資金調達のために始めた黄色のゴム製リストバンドが全米でブームを巻き起こしたりしている。ぜひ日本でもアスリートたちの活動が拡大していってほしい。

 最後に、チャリティツアーやベースボールクラブ運営など大家投手の活動は、野茂投手のNOMOベースボールクラブ同様にNPOとして行われており、協賛してくれる企業、個人を募っている。興味ある方は「Field of Dreams」(077-566-8016)まで問い合わせを。

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