MLB Column from WestBACK NUMBER
メジャーを席巻する「オヤジ」魂。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGettyimages/AFLO
posted2007/04/16 00:00
レッドソックスの松坂投手がメジャー初登板勝利を飾るという鮮烈デビューを果たし、賑々しく開幕したメジャーリーグ。日本のみならず米国でも、相当な“松坂フィーバー”が続きそうな雰囲気が漂っている。
そんな中、米国唯一の全国紙『USAトゥデー』紙が、メジャー開幕に合わせて興味深い特集記事を組んでいた。開幕日前日に発表された25人の出場選手登録枠(ロースター)に、今年は、この50年間で最多の40歳以上(シーズン中に40歳になる選手も対象)の選手たちが名を連ねているというのだ。各種競技で選手の低年齢化がどんどん進んでいる昨今、世の中年諸氏─もちろん自分も含めて─を勇気づけるような話題ではないか。
今年の開幕ロースターに登録された40歳以上の選手の数は、3人の故障者リスト入りの選手を含め計25名。これは昨年を1人上回っているという。メジャーの記録に詳しい業者によると、1962年から1980年の19年間では、40歳以上の選手は10人以下しか存在しなかったということで、その飛躍的な上昇は明らか。何故ここまでベテラン選手たちが、より長く現役生活を続けられるようになったのだろうか。
数年前のことだが、30歳後半から飛躍的に本塁打数を増やしたダイヤモンドバックス(当時)のルイス・ゴンザレス選手に、その辺の話を直撃したことがあった。
「まず野球用品が大幅に改善されたこともあるけれど、それと同時に選手のコンディショニングに関する技術が大きく向上したことが大きいと思う。自分もここ数年はオフでもずっとコンディショニングを続けているし、常に体調には気を遣っている」
そんなゴンザレス選手も今年9月で40歳になるが、今年ドジャースに移っても主力選手として名を連ねている。同記事中でも、投手としては現役最長の44歳ながら、フィリーズと2年契約を結んだジェイミー・モイヤー投手も、ゴンザレス選手と同じような考えを述べている。
「我々のような選手たちは、これまで以上に自分たちのケアを怠っていないと思う。それを証明することはできないが、同世代の他の選手たちを見ても、皆どんなものを食べればいいのか、オフシーズンのコンディショニングをどうすべきなのかなど、熱心に考えているようだ」
メジャーの年俸の高騰化はいうまでもない。すでに彼らはこれまでに相当額の収入を得ているし、さらにメジャー登録10年をはるかに超え、選手会からの年金も満額(確か日本円で年間2000万円相当)が支払われる選手ばかり。たった今引退したとしても、生活設計にまったく不安のない人たちのはずなのだが、どうして身体を酷使しながら現役を続けるのだろう。
「お金の問題ではなくて、『自分はまだ十分にやれる』とか、『まだ誰かが自分を必要としてくれる』、『まだ自分は野球を楽しむことができる』という可能性の部分なのだと思う」
今年5月に40歳になるブレーブスのジョン・スモルツ選手が説明するように、彼らの支えは、単純に野球に対する熱情以外に何もないのだろう。いくつになっても野球を愛し、草野球を続けている日本のオジさんたちと心境はまったく同じだ。ただ彼らの場合は、今なお一線級で続けられる体力と技術を持ち合わせているというところが、違ってはいるが。
「自分の身体が自分に対し、あと5年は続けられると訴えかけるかもしれない。でもそうなったら、妻が僕を殺すだろうね」
この記事では、今年41歳になるメッツのトム・グラビン投手のジョークも紹介しているが、ベテラン選手たちにとって唯一の問題は家族。彼らのほとんどが思春期の子供たちを抱えている一方で、1年の大半を家族と離れて暮らす場合がほとんどだ。一旦はヤンキースから引退したロジャー・クレメンス投手がアストロズと契約したのも、シーズン中も家族と一緒に住めるヒューストンだからだったのは有名な話だ。やはり彼らが現役を続けていく上で、家族、特に夫人たちの理解が重要な要素になってくる。
ラグビーでは40歳以上の選手たちで構成される“不惑”リーグというのがある。もちろん40歳を過ぎても若手と一緒にプレーすることもできるのだろうが、ラグビーという過激なスポーツにおいては、40歳以上というのは隔離せざるを得ない部分はある。それだけにメジャーという最高峰リーグで、40歳以上のオッさんたちが若い選手たちに負けない活躍をするのは、個人的にも痛快この上ないことだ。
まさに論語の「四十にして惑わず」。今シーズンも不惑たちの道を究めた妙技を堪能したいと思っている。