カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:ロッテルダム(オランダ)「マイナス8の世界」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2004/12/22 00:00
ロッテルダムで一番お気に入りのカフェに入ると
寒い曇り空にぴったりな音楽が耳に飛び込んできた。
暖かい南欧もいいけど、この街のひんやり感も好きだ。
なにを隠そう、僕の「引き」はとても強い。何の気なしに出かけたサッカーの試合が、誰もが羨む好試合になったり(最近ではリバプール対アーセナル、リバプール対オリンピアコスなど)、とにかく、おいしい場面に遭遇するケースが、他人より明らかに多い。
今度帰国したらすぐ翌日に、街取材で訪れることになっている草津が、天皇杯で8強入りしたこともその一つだ。J2昇格の祝賀ムードも一息つく頃だし、鄙びた温泉地で一年の垢でも落としましょうと、暢気に構えていたところ、草津は9人でJ1の年間王者に勝っちゃった。おいしい番狂わせが起きてしまった。どこよりもサッカーで盛り上がる街の活気を、「ついで」に味わえるとは、なんたるラッキーボーイ。
だからといって、僕が強烈な晴れ男というわけではない。「雨男」という反社会的? な看板を背負っているつもりもないが、いま僕のいるロッテルダム は、そんなどっちつかずの僕に相応しい中途半端な曇り空にある。
寒い。これはオランダなので仕方はない。いただけないのは空の色だ。白い。それにわずかにネズミ色が加わるなら、普通の空なのだけれど、どちらかといえば青みが掛かっている。だから辺り一帯は、必要以上に寒く見える。
僕が、この街で一番好きなカフェ「ランチラウンジ・ノストラ」に入れば、備え付けのスピーカーからは、お気に入りのコンピレーションアルバム「ホテル・コスト6」が流れていた。席に着いた瞬間、耳飛び込んできたのは、マイナス8の「スノウ・ブラインド」。中でも最もイカしている一曲なんだけれど、窓越しに見える青白い空と、そのユニット名とが、まさにぴったりなことにも驚かされた。というより、むしろ感激した。たぶん外の気温はマイナス3。
ある種のマトモさを漂わすこのひんやり感を、僕は、けっして嫌いじゃない。オランダにいる実感が湧いてくる。この国は「くすり」が、暗黙の了解事になっていたり、同性同士の結婚が認められていたり、女性の平均身長が176センチもあったり、少しばかりおかしな気配を感じさせるが、日本から欧州を訪れた時、最も「普通」な印象を抱くことも確かだ。社会は総じてマトモ。スペインやイタリアにはないピリッとした良い意味での緊張感がある。暖かい南欧も良いけれど、こちらにはこちらの魅力がたっぷりある。
オランダリーグの大一番、フェイエ対PSVも、青白い空の元で行われた。光っていたのはパク・チソンとイ・ヨンピョで、彼らのプレーにはマイナス8ぽい、ピリピリとした躍動感が漲っていた。一方、我が小野伸二選手からは、冴えた音が聞かれなかった。演奏の中で、どのパーツを担当しているのか、注意しなければ聞き取れないほど地味だった。端役も良いところだった。
小野といえば日本期待の星。いまをときめくPSV相手に、どこまで立ち向かえるか、期待に胸を膨らませながらの観戦だっただけに、よけいガックリした。
少し前まで小野には、バルサのチャビより良いんじゃないかとまで思っていた。少し低い位置からパスで組み立てていく能力なら小野の方が上。年齢も同じくらいだし、贔屓目を抜きにしても、少なくとも良い勝負だ、と。だが、ここに来て両者互角の評価は、チャビの大量リードに一変した。最近のチャビは、偉大な先輩、グアルディオラ気取りしていたかつてとは異なり、プレーに活気が漲り、精神的にも逞しくなった。アスリート的な印象すら抱かせるようになった。脳は90分間、フルに回転しまくっている。隣りでプレーするデコが、まさにそんな感じなので、それが良い意味で刺激になっている気がする。チャビは確実に一皮むけた。「南」にいるのに「北」の小野よりマイナス8的。
また、草津も寒い。温泉場の奥にはスキー場がある。僕もチャビに負けないために、雪山でトレーニングでもしてこようか、、、なんてね。