Column from SpainBACK NUMBER
太っちょロナウドに闘志を燃やすラウール。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2006/04/12 00:00
眠たいわけでもあるまい。試合前のストレッチの最中にロナウドは大きなあくびをひとつかました。緊張感がないのか、リラックスし過ぎているのか。4月1日、FCバルセロナとのクラシコでロナウドは腑抜けに映った。久々のカンプ・ノウを懐かしむのはいいけれども、あくびしているようじゃ、「こりゃ、ダメだ」と。
バルサ時代のロナウドは、まだPSVから来たばかりの19歳の小僧だった。ホホがこけていて、出っ歯がいまより目立っていた。俊敏で、フィーゴのアシストでゴールを決めまくったロナウドは得点王にも輝いた。インテル移籍でワン・クッション入っているとはいえ、レアル・マドリーにいること事態、裏切り行為。バルサ的にいえば、フィーゴもロナウドも同罪。しかし、すっかり姿かたちが変わってしまったロナウドにもブーイングが浴びせられるが、フィーゴに対するものほどの殺気はなかった。クラブ内紛で調子の悪いレアルをどこかで見くびっていたようだ。その余裕がロナウドにも伝染したのだろうか。「あぁぁぁあ」とのんきな大あくびも出てしまうほどのリラックス・モードだ。
そもそも、今回のクラシコはチケットが余っていた。カンプ・ノウにたどり着くまでに何度もダフ屋さんから声がかけられて。いつもならアツくカウントダウンする新聞報道もそれほどアツくないもんで、いまひとつノリも悪くて。レアルがバルサから3ポイント奪えば、優勝争いも少しは面白くなるのだが、試合もロベルト・カルロスが理不尽なイエローカードを叩きつけられて、25分で退場ですから。そういえば7、8年前のクラシコでも、ロベルト・カルロスはカンプ・ノウで退場になっている(しかも、その数年後に仲間になるフィーゴを削ったことで)。
よっぽど、翌日のセビージャ・ダービーのほうが雰囲気は良かった。ひとつの街に存在するライバル関係というのがフルに出ていて。試合後にベティスの選手たちと観客が一体化した歓喜爆発はダービーの重要性を物語っていた。
さて、太っちょロナウドである。ひとり少ないにもかかわらず、バルサからゴールをあげたのには驚いた。ラウールをベンチに追いやっているだけのことはある。マークについたのが、ブラジル人の後輩モッタというのも彼に余裕を与えた。
「あぁ、キミなら楽勝だよ」
そんな先輩風を吹かしていて。さらには、ゴールを決めてからはサイドバックの位置まで下がって守備をする働きぶり。信じられない光景。しかも、ロナウジーニョが先制のPKを決めたとなると、黙っちゃいられない。スペインに来たばかりの頃のロナウジーニョは、まだロナウドを尊敬のまなざしで見ていた気がする。初のクラシコでは負傷して観客席からの観戦だったが、ロナウドがピッチを下がったやいなやレアルのベンチまでユニフォームをもらいに行ったほどだった。ロナウドにしてみれば、まだまだ負けたくはない。
ところで、リーグ優勝はバルサという空気が流れている。レアルの猛追は消えた。W杯の準備期間にはちょうどいい、といった感じで。ここ数試合、負けはしないが引き分けのゲームが続いている。それでも、2着とか3着だから焦ることもない。けれども、先週末の試合でロナウドは坐骨を痛めた。全治2、3週間。ほんとにケガが多い。「ここまでケガなしでこられたことに感謝している」というエトーとは対照的なストライカーだ。3歩すすんで、2歩さがってりゃ、得点王も遠のいていく。
ラウールがいるからいいが、スペイン代表主将がレアルのベンチウォーマーというのもどうか。「ラウールは僕らのリーダーであることに疑いはない」とフェルナンド・トーレスはいうけれども、ロナウドのサブという現実は悲しくもある。スペインのエースでも、ブラジルでは補欠でっせ、といわれている気もして。
W杯で順調に行けば、ブラジルとスペインは準決勝で対戦する。ロナウドにはプジョルがマークにつくことで、再びバルサ対レアルの戦いが訪れる。でも、アツいのはプジョルだけではないだろう。ロナウドはロナウジーニョを意識している。まだ、キングは俺だ、と。で、そのロナウドにもっとも闘志を燃やしているのはラウールだ。レアルでも犬猿の仲に思えるふたり。ラウールはベンチ生活という屈辱をW杯で晴らしたい。ドイツはラウールにとって、ひとつのターニング・ポイントとなる。太っちょには負けるか、と。