Column from SpainBACK NUMBER
珍しくひとつになったスペイン代表。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/11/22 00:00
敵地ソルサでスウェーデンに0対2の完敗を喫したスペインだったが、今回、11月17日のホームではスペイン有利の情報が流れていた。
スウェーデンはヨハン・エルマンデル、トビアス・リンデロート、ニコラス・アレクサンデションら中盤の選手が負傷離脱。リュンベリ、ビルヘルムソンらは、ケガから復帰したばかりでコンディションは万全ではなかった。90分間動けるかどうかも怪しい、と。
負傷者続出のスウェーデンは引き分けで御の字であり、スペインにすれば、スウェーデンが引いて守備を固めてくることは想定内だった。相手は無理には攻めてこない、恐いのは1発カウンターのイブラヒモビッチだけだ、と。
前半のボール支配率は71%対29%。中央で起点となるシャビが狙われて2度ほどカウンターを食らったが、イブラヒモビッチとリュンベリに鋭さはない。マルチェナとプジョルのコンビがまったく攻め入る隙を与えない。いまやネスタとカンナバーロ、テュラムとガラらと引けを取らないほどだ。むしろ、いい。
13分、CKからカタルーニャ人のカプデビラが先制点を奪うと、38分にはスペイン人らしい展開で追加点を叩き込んだ。
スペイン人らしい、とはその圧倒的なポゼッションにある。
「ほとんどの時間帯、ボールポゼッションはボクらにあった。今日の試合は最高だ」とはセルヒオ・ラモス。
ルイス・アラゴネスの仕込みはこれまでと少々違った。イニエスタとセスクを先発で起用したのだ。彼らにシャビを加えたバルサ産のセットと、アルベルダ、シルバ、ビジャのバレンシア産の組み合わせだ。特にシャビとアルベルダ。このふたりの役者が揃わなくては、こうもうまくボールは運べなかっただろう。
「らしさ」が出た38分のゴールはこうだ。GKカシジャスからプジョルに渡ったボールが左サイド、右サイドと往復し、敵を崩してゆく。この間、シャビは3度、アルベルダは2度、中央でボールに絡む。結局、フィニッシュしたイニエスタまで実に8選手を経由し、47秒の時間をかけ、45タッチ、14本のパスがつながりゴールにたどりついたのである。
ゴールまでのアクセスで、セスク、マルチェナ、ビジャ、そしてスウェーデン人以外はみんなボールに触れたわけだ。
2、3本のパスで決めるのもゴールだが、14本のパスを繋いで決めるゴールをスペイン人は求める。スペイン人らしさとは、そんな憎らしい演出のことだ。
さらには後半、アラゴネスはすぐさま動いた。オシムより3歳年上の老将は守りに入るのを嫌った。この攻めの姿勢が、64分のセルヒオ・ラモスのゴールにつながる。後半6分という早い段階でビジャとイニエスタをタムードとホアキンにチェンジ。続いて後半20分にはシルバに代えリエラを投入。こうなると編成は、カタルーニャ部隊だ。これもまた、なかなかのリズムを奏でたのだった。
マドリッドにカタルーニャのカメラマンが撮影に来ることはほとんどないが、この試合は別。バルサ、エスパニョールの主力が揃って出場しているのだから。ここ最近はスペイン代表の記事がカタルーニャの新聞にもたくさん掲載されている。
「試合の2日後にはインタビューも予約してある」とは『エル・ムンド』紙のカメラマン。なぜなら、12月にはバルセロナ・ダービーとクラシコが行われるからカシジャスとセルヒオ・ラモスも含めてまとめて取材するのだという。
また、別のカタランのカメラマンはこう話す。
「セスクにサンタの格好をしてもらって、シャンパンを片手に表誌撮影ってやつで」
『ドン・バロン』誌の毎年恒例の企画モノだ。
珍しくベルナベウにはカタルーニャの旗までなびいていた。〈カタルーニャも出席している。スペイン代表前へ進め〉、そんな横断幕まで踊った。文字こそカタルーニャ語でなく、スペイン語であったが、時代は変わりつつあるのだろうか。
スペイン人は首位通過の勝利に酔う。いつも予選ではハイな気持ちにさせてくれる。ただし本番に弱いのも、スペインである。問題はそこが変われるか、だ。