オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
キリンカップ VS.コロンビア
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byToshiya Kondo
posted2007/06/11 00:00
日本がコロンビアとスコアレスドローに終わった6月5日の埼玉スタジアムでのキリンカップで、日本の先発メンバーを見て驚いた人は多かったに違いない。
GK川口(磐田)にDF駒野(広島)、中澤(横浜FM)、阿部(浦和)、中田浩二(バーゼル)の最終ラインや、MF鈴木(浦和)、中村憲剛(川崎)、遠藤(G大阪)、中村俊輔(セルティック)の中盤はともかく、トップ下は稲本(フランクフルト)。FWは高原(フランクフルト)の1トップだった。
トップ下を「フラムでやったことがあるぐらい」という稲本は、ほとんどボランチとしてプレーしてきた。しかも、5月30日に代表チームに合流して以来、トップ下での練習は一度もなかった。
2日の練習試合でも彼のポジションはボランチ。それも、1日の2−0で勝利した大会初戦のモンテネグロ戦後の会見で、オシム監督が「1人でボランチをこなせる選手を探している」と話していたのを具現化したような、1ボランチでの起用だった。
ボランチでの守備はもちろん、そこから前線へ駆け上がって攻撃参加するのは稲本の得意パターンのひとつだ。チームとしても、中盤から前線への飛び出す動きを練習で確認していて、本人も「ジーコ時代にはなかった。自分のプレースタイルに合っている。これから楽しみ」と、期待と感じつつある手ごたえを口にしていた。
その彼を敢えてトップ下に置いたのは、細かいパスワークで組み立てを計るコロンビアに対して、相手ボランチやバックラインにプレスをかけて簡単にフィードをさせないことと、トップ下からの動き出しを期待してのことではないか。
突然の起用にも、他のメンバーと連動して動きを作ろうと試みてはいたが、通常の位置より2列ほど高いポジションで、今季ガラタサライでリーグ戦25試合に出た27歳は戸惑っているようだった。
「意外なポジションで戸惑う部分もあった。機能したかというと、難しい」と稲本は振り返った。
ハーフタイムを終えて、彼に変わってピッチに姿を見せたのは羽生(千葉)だった。
羽生は、見本を見せるかのように、前線近くで動きまわり、後半立ち上がりからの日本の攻撃にリズムとチャンスをもたらした。
稲本以外にも、いつもと違うポジションで起用された選手はいた。
後半、前半途中で足を痛めたという中田に替わって左サイドバックに入った今野。阿部も現在浦和では左サイドバックやボランチでの出場が多く、センターバック専門ではない。
だが、日本のプレスの甘さと中盤でのミスを利用して右サイドから攻め込むコロンビアに対して、日本は最終ラインが奮闘。特にセンターバックの中澤と阿部の二人の強さが際立った。また、今野は如才ないプレーで改めて対応力の高さを示した。
コロンビアMFフェレイラとMFマリンへのマークの役割がはっきりせずに、この2人に前半はかなり引っ掻き回されたが、相手の動きが落ちたとはいえ、無失点に抑えることができた守備は評価すべき点だろう。
機能しなかった前半の布陣を「カミカゼシステム」と命名したオシム監督も、「リスクの大きい構成だった」と話した。だが機能していれば、その名から察するに、高い位置から相手の裏を脅かす攻撃を見ることができていたのだろうか。そして指揮官は、「勝ち点1を争う試合なら10分で誰かを交代させていた」と付け加えた。
キリンカップとは言っても親善大会。それも、これが日本にとっては3連覇を狙うアジアカップ前の最後の試合だった。そこでオシム監督は、コロンビアに攻め込まれながらも、選手の対応力を見極めていた。それは、合流間もない欧州組にこのチームの流儀と監督の考え方を示すものでもあったのだろう。
オシム・ジャパンでは、監督がよく口にする「ポリバレント」という単語に象徴されるように、1人の選手に複数のポジションや役割を果たす事が求められている。それがたとえ練習でやっていないものであっても、だ。そしてそれは、「自分のプレースタイルはこれ」と自分で決め付けてしまい、その枠から出られないでいる選手の潜在能力を引き出すことにつながっているように思う。
君はこれを出来るね。では、こっちはどう?出来るでしょう?やってごらん…とでも言うかのように。
当然ながら、チームには監督が求めるものを理解して成し遂げようとする者だけが生き残る。戸惑ったトップ下稲本も、センターバック阿部も、サイドバック今野も、持ちすぎないプレーを試みた中村俊輔も、それぞれの役割を懸命にこなそうとしていた。
「どんなにいい選手でも動かなければよい選手とは言えない」とオシム監督。
言葉以上に、これまで以上に、とても強烈なメッセージ性のある選手起用だった。