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From:新潟「気ままな気分で『ドサ回り』」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/09/15 00:00

From:新潟「気ままな気分で『ドサ回り』」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

宮城スタジアムから新潟ビッグスワンへ向かうのに、

大切なのはルーティング。

「早くて便利」はもちろん捨てて、のんびり気分で「ドサ回り」。

 仙台駅から直線距離で十数キロ。シャトルバスに揺られること45分。ここまで人里離れた辺境の地に立つスタジアムも珍しい。宮城スタジアムの話だ。僕が「スタジアム」だったら、寂しさに耐えかね、きっとノイローゼで寝込んでいるに違いない。

 新潟駅からシャトルバスで15分。徒歩だと30分〜40分ってところか。こちらの話はビッグスワン。初めて訪れた時、周囲には田圃以外何もなかった。聞こえてくるのはカエルの鳴き声ばかり。どうしてこんな寂しい場所に、スタジアムなんか建てちゃったんだろうという思いは、宮城の場合と共通していた。ところが、両者の差はここに来て大きく開いている。新潟駅の東口というか南口というか、万代口とは反対側の出口からビッグスワン方向に伸びる大通りは、訪れるたびに賑やかさが増している。レストランやカフェなどの飲食街が、ビッグスワン近くまで伸びてきていて、歩きでも良いかもと思わせる楽しげな道に変化した。ビッグスワンが、市街地の一角を占めるようになるのも時間の問題か。

 宮城スタジアムの哀れは、ビッグスワンと比較すれば明白。ベガルタ仙台の試合は、大抵が仙台スタジアムで行われるわけだし、先日行われた日本代表対ホンジュラスのような試合が、たびたびあるわけでもないし

 新潟訪問は、日本代表がホンジュラスに5−4で逆転勝ちした翌日だった。仙台から東京に戻らず新潟に向かい、そのまま土曜日に行われるJリーグ(アルビレックス新潟対セレッソ大阪)まで、新潟滞在を満喫しようと考えたのだ。

 僕はルーティングに思いを巡らせた。インターネットで仙台〜新潟間の最短ルートを検索すれば、仙台から東北新幹線で大宮へ行き、そこから上越新幹線に乗り換えて新潟へが、現れた。所要時間はどの時間帯もだいたい4時間弱。しかし、大宮まで「戻る」行為に、面白さは感じない。旅情は湧かないと判断。別ルートはないものか、早速、時刻表と睨めっこした。

 日本の鉄道は東京を中心に放射線状に伸びている。それに従った方が便利なようにできている。仙台〜新潟を大宮経由で行くのが最短であるという事実は、東急東横線自由が丘から井の頭線明大前を目指そうと思った時、渋谷経由が速くて便利なのと同じ理屈だ。しかし、自由が丘〜明大前を利用する時、旅行気分を求める人はあまりいない。速くて便利が最優先事項になる。のんびり気ままな旅という今回の僕のコンセプトとはかけ離れている。

 バスという選択肢もあった。こちらの所要時間は4時間半ながら、この日の便は夜行のみ。そこで僕はこんなルートを探し出した。仙台から東北新幹線に乗り福島を通過。2つ目の停車駅である郡山で下車し、そこから磐越西線の快速に乗り換え会津若松へ。さらにそこから同じく磐越西線の普通電車に乗り換え、喜多方、新津を経由して新潟へというルートだ。仙台発11時52分。新潟着17時34分。所要時間は、乗り換え時間込みで5時間42分なり。

 選択は大正解。特に阿賀野川の流れと共に新潟に伸びる磐越西線の車窓越しの眺めには恐れ入った。山あり谷あり、トンネルあり鉄橋あり。ipodシャッフルを耳に突っ込みながら、延々3時間近くそのダイナミックな自然と向き合っていると、その10日ほど前に眺めたばかりの絶景が蘇ってきた。

 所はバスク。オサスーナの本拠地パンプローナと、アラベスの本拠地ビトリア間の話だ。バスクも良いけど仙台新潟の旅も良い。仙台新潟も良いけどバスクの旅も良い。両者は超ハイレベルな甲乙付けがたい旅ルートだ。

 バスクにはこの2チームの他にも、ビルバオとレアル・ソシエダ(サンセバスティアン)がある。そして、バスク地方とこの日、僕が電車で歩んだ仙台新潟間一帯とは、面積が共通しているように思える。仙台、新潟だけでなく、郡山、会津若松、さらには喜多方あたりにも、プロサッカークラブが誕生して不思議はない。バスクの風景の残像が車窓越しの風景とシンクロすると、僕の耳にはどこからともなくそんな声が飛び込んできた。アラベスのホーム「メンディソロッサ」のように、小さいながらもイカしたスタジアムを持つプロサッカークラブが近い将来、日本国内に誕生して欲しいなとも思う。そして正直言えば、宮城スタジアムの姿も、ホンジュラス戦で露呈した日本代表の滅茶苦茶な戦いぶりも、そこでたいそう憂うことになったのだが、この際それはさておきプラス思考の話を重ねれば、新潟から足を伸ばして日帰り旅行した佐渡がまた良かった。

 新潟港から高速船で1時間。それを遠いと思うか、近いと思うか微妙な線だが、流人の島として知られたかつてに比べれば、ずいぶん近くに感じられるはずだ。

 現地で手に入れたパンフレットには「ドサ回り」の語源が、佐渡(サド)にあるらしいと記されていた。仙台、新潟そして佐渡。今回の旅はまさにドサ回り。バスクの旅だって似たようなものだ。前回、このコラムで触れたマンチェスター〜リバプールも例外ではない。僕のようなサッカー系(のんびり系)スポーツライターは、大袈裟に言えば毎日がドサ回り。佐渡で僕は、自らのキャラを改めて自覚したというわけである。

 しかし、いっぽうで、佐渡は金山の島としても知られる。ドサ回りしても、細々とした金脈しか見つからない僕の場合との、最大の相違点である。たぶん、大きな金塊は、死ぬまで見つけ出せそうにない。でも僕はくじけない。なぜなら、まさに金塊と呼ぶに相応しいサッカーの好勝負、名勝負に、何度も立ち会うことができているからだ。というわけで、僕の首には金メダルがたくさんぶら下がっている。へへへ。ドサ回りは止められない。

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