セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
アドリアーノ不調の要因。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2006/04/03 00:00
インテル・ミラノのFWアドリアーノが不調だ。3月25日のパルマ戦でも、鋭いプレーで前線を活性化させるのが彼の役割であるにもかかわらず、プレーに精彩さを欠き、存在感はまるでなかった。最終ラウンドに入り、誰もが恐れていた「エースの不振」が再発したことを印象づける内容だっただけに、インテル幹部は窮地に立たされたアドリアーノを戦力から外すことでチーム不振の打開策に踏み入った。
「アドリアーノの不調は歴然である」
アドリアーノを除くFWの奮闘に納得しているマンチーニ監督は、敗北だけは避けたい試合を控えた大事な時期だけに、アドリアーノの起用を打ち切った。もともと重圧に動じてしまうもろい精神のため、コンディションには常に波がある。しかし、最近の試合では本領を発揮できないアドリアーノが多分にチームの足手まといになっていることから、監督はついにさじを投げてしまった。
アドリアーノの不調の要因は「W杯症候群」、つまりドイツ大会への野望が最近の彼のプレーに大きな影響を及ぼしている点にあると思う。アドリアーノ自身にとって初出場となるW杯へ焦点を合わせたい気持ちはわかる。とはいえ、W杯への気迫が高まれば高まるほど、リーグ戦ではケガに対する危機感が芽生え、体を張ってプレーできないという反作用を生んでしまう。
「W杯症候群」は、かつて2001−02年シーズンにインテルに在籍したブラジル代表のFWロナウドも持ち合わせていた。リーグ後半は、故障からの完全復活を印象づけたロナウドだったが、4月に入ると気持ちがW杯へと移り変わることで、リーグ戦への集中力に欠けた。それでも怪童は最終節までの3試合で連続してゴールを叩き出すなど、下がってしまったモチベーションを高めようと精を出したが、結果的には、肝心なところで「スクデット」を逃してしまったのだ。
インテルのモラッティ会長は、すでに放出要員としてリストアップしていたFWマーティンス、レコバに続いて、アドリアーノの名も加えてしまった。
名門復活を目標に掲げるインテルにとって攻撃陣を変更する方針は理解できるが、現実のところ世界的に品薄状態である優秀なFWを買い求めることはたやすいとはいえない。このたび、レアル・マドリーが提示したロナウド(+1000万ユーロの現金)とアドリアーノの交換トレードも、インテルにとっては好条件ではない。最終的にはアドリアーノを抱えて育てる、すなわち伝統を知らない若手外国人選手に「セリエAの名門クラブ」の誇りを植えつけることが得策であるような気がする。
欧州スタイルのサッカーが定着しているインテルには、アルゼンチン選手はフィットしても、ブラジル人選手は育たないというジンクスがある。ブラジル人にはブラジル流の教育法をインテルの幹部が身につけなければ、いつまでたっても同じ失敗を繰り返すことになってしまうのだから。