レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

“不幸”だった2004年。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2004/12/27 00:00

“不幸”だった2004年。<Number Web> photograph by AFLO

 「1−0よりも4−3で勝ちたい」が口癖だったのはFCバルセロナ監督時代のヨハン・クライフだ。スペインリーグに“攻撃サッカー”のイメージが定着したのも、失点を恐れず敵ゴールに向かい続けたロマリオ、クーマン、ストイチコフ、ラウドルップ、グアルディオラらのお陰だろう。

 サッカーの華はゴールであり、点の取り合いは文句なく楽しい。

 プロの監督なら、守備組織が機能した証拠である「1−0」を歓迎するのが当たり前なのに、“取られたら取り返す”というスペクタクルなサッカーで、バルセロナの勝利だけでなくサッカー界全体を繁栄させたクライフは、さすがに器が違う。“天才”たるゆえんだろう。

 さて、バルセロナから13ポイントも離され(爆弾騒ぎで中断したレアル・ソシエダ戦の勝ち点は計算せず)、暗い正月を迎えるはめになったレアル・マドリーだが、“楽しいサッカー”といえばこのチームのことだ。

 先週末のラシン・サンタンデール戦では2度もリードされながら、ロスタイムのジダンのヘディングシュートで劇的な逆転勝ち。「0-1」で敗れたセビリア戦も、後半の20分過ぎまで激しい撃ち合いで、「2-4」くらいのスコアで終わっても何ら不思議のないドキドキする内容だった。

 この点、首位バルセロナはもの足りない。

「バルセロナの方が守備はよく、試合をコントロールする能力は遥かに優れている」と言ったのは、バルセロナとレアル・マドリーの往年の名選手シュスター(現レバンテ監督)だ。

 前線からの激しいバルセロナの守備は、敵のボールキープすら許さないシビアなもので、一方的な内容でゲームを終わらせかねない。そこには“サッカー界の共存共栄”などという甘さが感じられない。「4-3」どころか「2-0」や「3-0」を目指す妥協の無さだ。ライカールト監督が、大先輩の率いたドリームチームと今のバルセロナを比較されることを嫌がるのは、そんな哲学の違いも原因かもしれない。

  今のレアル・マドリーのサッカーがチャンスとピンチが交錯するエキサイティングなものなのには、理由がある。

  1つは、むろんロナウド、オーウェン、ラウール、ジダン、フィーゴ、グティ、ロベルト・カルロスら銀河系一の豪華な攻撃陣のお陰。もう1つは、ちょっとプレスをかけられるとポロポロとボールを失う中盤、そして左サイドのジダンの背後に“大穴”を放置する寛大さゆえだ。 

 体力の衰えが目につくジダンとロベルト・カルロス(あるいはラウール・ブラボ)のいる左サイドは、サッカーファンなら誰もが知るレアル・マドリーのセキュリティーホールだ。中盤でインターセプトされたボールをここへ放り込まれるだけで、簡単に左センターバックのサムエルとフォワードの1対1が実現する。サンタンデールもセビリアもここを突いて、キーパー、カシージャスのスリリングなスーパーセーブを演出していた。

  ここ7試合で5敗2分と沈むサンタンデール、ベルナベウスタジアムで20年間勝利のなかったセビリアとも互角の戦いを許す、レアル・マドリーの寛容さと隙が、ゴールチャンスが連続する娯楽性に貢献しているのだ。

 もっとも、「楽しいサッカー」とか「ドキドキ」とか「スリリング」とかで、レアル・マドリーファンは喜んでいられない。

 少しでも目を凝らしてみれば、贔屓チームには、スペクタクルとは正反対のため息が漏れるような“いつもの光景”が満ちていることに気がつくはずだ。

 スピードとプレッシャーのモダンサッカーに背を向けた予測可能で遅いサッカー、ローテーション制を使いこなせないガルシア・レモン采配、動かない走らないロナウド、“ミッドフィルダー化”したラウール、ドリブルに固執し速攻を逃すフィーゴ、ボランチで右往左往するベッカム、後半になると肩で息をするジダン、ファールでしか止められないサムエル、チームメイトを非難するロベルト・カルロス、補強担当ブトラゲーニョをわずか半年で見限りアリゴ・サッキを迎えた場当たり的マネージメント、“これ以上フォワードを獲ってどうするのか?”のロビーニョ(サントス)獲得交渉……。

 まるでビデオテープを繰り返し見ているかのように新味が無く、興奮どころかアクビが出そうだ。

 いったい2004年を通じてレアル・マドリーの何が変わったのか?

 ケイロス、カマーチョ、ガルシア・レモンと監督は交代し、スポーツディレクターのホルへ・バルダーノは去り、フロレンティーノ会長は圧倒的な支持で再選され、モリエンテスが復帰し、オーウェンとサムエル、ウッドゲートがやって来たが、3月の国王杯決勝で敗れたショックがまだ尾を引いているように思う。あの日からクラブは下り坂を転げ落ちる一方なのだ。その集大成が、セビリア戦の敗戦、首位バルセロナとの13ポイント差、ガルシア・レモン監督解任の噂だろう。

  「2004年のことは忘れたい。不幸な1年だった」とカシージャスは振り返った。

 スペインでは年明けの瞬間に12粒のブドウを食べ、新年の幸運を祈願するが、レアル・マドリーの運命は祈るだけでは変わりそうもない。

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