プロ野球亭日乗BACK NUMBER
マウンドの国際化で常識が覆される!?
“日本式投法”に未来はあるか――。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/06/28 10:30
中央大学時代には最速157kmをマークしたこともある澤村。高校以来、鍛え上げてきた強靭な下半身が剛速球を支えているが……
アメリカと中南米では日本式粘り投法は絶滅の危機に!?
なぜ、こんな話を書いたかというと、実はマウンドの話を書きたかったからなのだ。
こうした日本式の下半身で粘って投げる投げ方は、もはやメジャーとその影響を強く受けている中南米などの国々では、あまり見かけなくなっている。
こうした国々では、投手にピッチングを教えるときには、まずいかに高いところでボールをリリースするか、ということを徹底して教えていく。マウンドの高さを利用して、投球に角度をつけることが、投手の優位性を生かす最も効率的なスタイルという考えだ。
そのためには踏み出した足をテコの支点のように使って投げるように、教えるわけだ(もちろん画一的ではなく、その投手の身体的特長に合うスタイルを指導するわけだが……)。
低く、できるだけ粘って前でボールを放せ──日本式粘り投法とは、対極のピッチングスタイルということになるだろう。
マウンドの土の軟らかさが投球フォームの違いを生んだ。
そして、この日本とメジャーで、投球フォームの理想がまったく違う進化をたどった理由の一つは、マウンドの問題に由来するように思える。
「日本に来て、最初に戸惑ったのはマウンドの土の軟らかさだった」
こう証言していたのは巨人のセス・グライシンガー投手だった。
「投げている内に、ステップして着地する部分が掘り返されてくる。相手投手とステップ幅が微妙に違う時は、そのままにしておくとバランスを崩してケガの原因にもなる。アメリカでは固いマウンドに慣れていたから、アジャストしなければならない一つだった」
この違いは、逆に言えば、日本からメジャーに挑戦した投手たちが経験する試練の一つでもある。
松坂大輔のひじの故障はアメリカのマウンドへの適応不足も遠因に。
日本式粘り投法の典型だった松坂大輔投手は、ボストン・レッドソックスに移籍した直後に、「足の張り方が日本で投げていたときと全く違う」と話していた。
日本ではステップした左足をマウンドがしっかり受け止めてくれるので、足の内側の筋肉が張る。しかし、メジャーのマウンドで投げると、左足は前下がりの傾斜に流れないように踏ん張る。そこで、これまではあまり張らなかったすねの筋肉が、異常に張ったという。
その後もフォーム的には様々な試行錯誤を繰り返してきた松坂だが、下半身の切れがなくなると米国のマウンドでは顕著に逆球が多くなり、ボールを制御できなくなる。下半身で粘る投げ方なのに、上半身に頼った投げ方になったことも、ひじの故障の遠因だともいわれている。