MLB Column from USABACK NUMBER
勝利の方程式
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2005/11/07 00:00
ホワイトソックス、88年ぶりのワールドシリーズ優勝でシーズンが終わった。ホワイトソックスのプレーオフでの勝因がどこにあったかを分析するために、今季プレーオフに進出した8チームの戦力比較を、以下の表にまとめた。
<プレーオフ進出8チームの戦力比較>
数字はプレーオフ進出8チーム内での順位
(括弧内はメジャー全体での順位)
進出レベル | チーム | 守備力 | 投手力 | 打 力 |
ワールドシリーズ | ホワイトソックス | 1 (2) | 2 (4) | 5 (16) |
ワールドシリーズ | アストロズ | 2 (4) | 1 (3) | 6 (22) |
リーグ選手権 | カージナルス | 3 (7) | 4 (8) | 4 (9) |
リーグ選手権 | エンジェルス | 4 (9) | 3 (6) | 7 (21) |
地区決定戦 | ブレーブス | 5 (19) | 6 (13) | 3 (7) |
地区決定戦 | パドレス | 6 (21) | 5 (10) | 8 (23) |
地区決定戦 | ヤンキース | 7 (22) | 7 (20) | 2 (2) |
地区決定戦 | レッドソックス | 8 (23) | 8 (25) | 1 (1) |
今回、守備力は「守備効率」(defensive efficiency:インプレーになった打球をアウトにした割合)、打力は「OPS」(出塁率と長打率の和)、投手力は「被OPS」で評価した。「OPS」については何度も解説してきたので説明を省くが、「守備効率」について若干の解説を加えよう。
実は、守備力を客観的に評価するのは非常にむずかしく、これまでよく使われてきた「エラー数」や「守備率」(エラー数÷守備機会)といった数字は、そもそも「エラー」の判定が公式記録員の主観に基づくものであり、客観的に守備の実力を反映するものとは言いがたい。実際、守備範囲の狭い選手は、打球にさわる機会が少ないのでエラーの数も減るし、簡単な打球だけ堅実に処理していれば守備率もよい数字が残るからである。
そこで、最近は、「どれだけエラーしたか」という主観的な観点からではなく、「どれだけアウトを稼いだか」という客観的な観点から守備力を評価する方法が採用されるようになり、チーム全体の守備力についても、インプレーの打球をどれだけアウトにしたかという「守備効率」が使われるようになったのである。今季、メジャーの守備効率1位はアスレチクスの7割2分9厘、最下位はロイヤルズの6割8分3厘だったが、最高のチームと最悪のチームとでは、飛んできた打球をアウトにする割合が5%近くも違うのである(1試合当たりでは、「アウト」の数が1.2個違ってくる)。
と、以上、3つの数字を使って戦力を比較した結果だが、今季のプレーオフの成績は、チームの守備力・投手力の二要素と、みごとに相関した。たとえば、ワールドシリーズに進出したのは、守備力・投手力とも上位2位の、ホワイトソックスとアストロズだったし、リーグ選手権レベルで見ても、2要素とも上位4位内のチームだけが勝ち進んだのである。
一方、守備力・投手力とは反対に、打力はプレーオフでの成績とはまったく相関しなかった。打力が上位2位を占めたのは、ヤンキースとレッドソックスだったが、両チームとも、あえなく地区決定戦で敗退した。
レッドソックス往年の名選手ドム・ディマジオ(ジョー・ディマジオの弟)は、50年代のヤンキースの強さの秘密を聞かれて、「Good pitching, good defense, and enough hitting」と喝破したが、ディマジオの分析は、今季のホワイトソックス、アストロズにもぴたりとあてはまる戦力総括となっており、今も昔も「勝利の方程式」は変わらないようである。
ただ、ここで、一言断っておくが、ヤンキースもレッドソックスも、投手力の強化を目指さなかったわけではない。故障者が続出するなどして、結果として投手力が期待したほど強化されなかったのである。しかし、マニー・ラミレス、ジェイソン・ジアンビ、バーニー・ウィリアムズ等の例を上げるまでもなく、守備に目をつぶって打力を優先したのは間違いなく、「勝利の方程式」からはずれたチーム作りをしたのだから、負けてしまったのも仕方ないだろう。