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“物語”を生みだすチームが勝つ!?
<'09年夏の甲子園プレビュー>
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/08/07 11:30
圧倒的なパワーで物語性をねじ伏せてしまった大阪桐蔭。
そういう意味では、昨年優勝した大阪桐蔭は少し傾向が違った。前述した3校はいずれも予想外の優勝校だったが、大阪桐蔭は本気で全国制覇をねらい、それを成し遂げた。そのため物語性には欠けていた。ただ、それを補って余りある力があった。それが決勝戦の17-0というスコアに表れている。逆にいえば、世論などに頼らずに勝とうと思ったら、これぐらいの圧倒的な力が必要になってくるということだ。
ただ、大会としては、やはり物語を持ったチームが勝った方が盛り上がる。
そういう意味では、この夏、世論をもっとも味方につけられそうなのはやはり花巻東だ。東北勢はいまだに優勝がないという背景と、エース菊池雄星の実力とキャラクター。物語をつくるには十二分すぎる。現段階では、このチームを上回る声援をバックにつけることができそうなチームというのが見当たらない。
だが、そこが高校生のおもしろいところで、大会中にもチームは格段に進歩し、選手も別人のように変わる。駒大苫小牧も、早実も、佐賀北もそうだった。戦前、これらのチームの躍進を予想していた人は皆無に近かったのだ。
だから、見方を変えれば、世論を味方につけるような勝ち進み方ができれば、どのチームにもチャンスはあるということだ。
駒大苫小牧と同じ北国のチーム、早実のようにスーパースターが現れるチーム、佐賀北のような公立校。どのチームでも、1つ以上はその条件に当てはまる可能性はある。
出場校中最低チーム打率の公立校・八千代東は面白い!
特に今年は初出場校が13校と多い。これだって物語の十分な要素になる。
たとえば、激戦区の千葉大会を勝ち上がったノーシードの八千代東などは、初出場で、しかも公立だ。さらに言えば、地方大会でのチーム打率は2割3厘と出場校中最低。これはこれでおもしろい。勝ち進んだらこれほど痛快なチームもない。
ここまで符合すると、あるチームを思い出さずにはいられない。'88年に旋風を巻き起こした浦和市立だ。まさに八千代東のように、県でも甲子園でもノーマーク。地方大会のチーム打率が最低だったのも同じ。そんなチームが、勢いに乗り、最終的には全国ベスト4まで勝ち上がってしまったのだ。失礼ながら、世紀の番狂わせだった。
だから、単純にチームの戦力だけを比較検討するのではなく、こんなチームが勝ったらおもしろいな、こんなチームが勝ったら絵になるのになあ、と想像しながら観戦するのも一興だ。そして、本当にその通りになってしまうことがあるのが、甲子園という場所でもあるのだ。
いちスポーツとして見た場合、そのような見方はあるいは不純に思われるかもしれない。だが、それが甲子園の醍醐味でもある。