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「個」に徹することがチームの「利」。
松井大輔、復活へのステップ。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byToshio Ninomiya

posted2009/07/11 08:00

「個」に徹することがチームの「利」。松井大輔、復活へのステップ。<Number Web> photograph by Toshio Ninomiya

カタール戦で垣間見えた、松井の煩悶。

 実際、日本代表での松井のプレーには、何か迷いのようなものを感じないではいられなかった。

 6月10日のカタール戦の前日。ミックスゾーンで足を止めた彼は、自分に言い聞かせるようにして覚悟を示した。

「(試合に)出たら、自分の世界に入りますよ」

 ベンチスタートとなったカタール戦は、後半13分からピッチに入った。だが、松井は宣言していたはずの「自分の世界」には入らなかった。いや、入れなかったのかもしれない。

 精力的に守備をこなし、自陣まで必死に戻って執拗にボールを追った。チームで求められていることを、まずは優先していたように見えた。攻め急いで松井のところまでボールが回っていかないために仕方のない面はあったにせよ、松井の仕掛けや攻撃のアイデアがいきる場面はなかった。松井に期待する、あるサッカー解説者は、私の顔を見ると「松井にはもう少し自分の色を出してもらいたい。なんだか中途半端に見えてしまう」と残念がった。

豪州戦では“らしさ”の片鱗は見えたのだが……。

 本人も忸怩たる思いを抱いたからこそ、欧州組でただ一人、オーストラリア遠征の参加を志願したのだろう。

 オーストラリア戦を目前に控えた彼は、次こそ「自分の世界」に入ろうと意識を高めていたに違いなかった。練習後に取材にすると、いつもの温厚な表情を表に出しながらも、彼の放つ言葉は鋭くとがっていた。

「点を獲りたい。サイドを仕掛けていってスペースをつかいたい。どんどんいきたい。そして、つなぎの部分ではもっと落ち着いてやれればいい」

 だが、アウェーのオーストラリア戦でも、松井が苦悩から解放されることはなかった。屈強な相手に1対1で張り合い、仕掛けてチャンスをつくった場面には“らしさ”があった。とはいえ、松井のなかでは周囲との連係、連動性がまだまだウエートを占めていたように思えた。連係がうまくかみ合わないまま時間だけが過ぎ、後半に右足首を痛めてピッチを去ってしまうのである。

 もちろん、周囲との連係、連動は重要だ。ただ、松井大輔というプレーヤーは、良い意味でもっとひとりよがりであることが、チームの「利」とされてきたような気がする。他のプレーヤーとは違うリズムを持つことで、相手のリズムを狂わせ、そこが突破口になる。プレーに限っては、もっと「個」に頼ることを許されているプレーヤーのはずではなかったか。

カズも認めたその才能。解き放つために我を通すべきだ。

 松井に対するアドバイスを、カズこと三浦知良が『Number』本誌で連載中の「Dear KAZU カズへの手紙。」で送ったことがあった。京都パープルサンガで一緒にプレーした松井の才能を、カズは誰よりも認めていた。

「松井大輔は“さすらいのドリブラー”だと思ってます。一ファンとして、もうしばらくは、やんちゃでいてほしい。(ボールを)持ちすぎぐらいでちょうどいい」

 苦悩から解き放たれるべく、松井は初心に戻ることを決意した。そのために、グルノーブルを選んだ。きっと、松井もカズの言葉の意味を分かっている。

 もっと強引なプレーがあってもいい。もっとひとりよがりであってもいい。

 さすらいのドリブラーよ、やんちゃであれ――。

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