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FISCOにF1がやってくる。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

PROFILE

posted2006/06/14 00:00

 「おそらく、F1ファンの9割の方がアンチ富士スピードウェイだと思うんですよね」

 と、いきなりドキッとすることを言うのは、富士スピードウェイ株式会社東京営業部広報・総括課の西川秀之課長である。20年の歴史を育み多くのファンから愛された鈴鹿サーキットから今年バトンを受けた富士だが、「ホントにやれんのか?」といった懐疑的な目線が多いのは正直なところ。それを知っての自嘲的な発言であるが、大本営にいる西川課長の目はキラリと光ったままだ。やはり、日本で初めてF1を開催した自負と親会社トヨタの理念である『お客さま第一主義』に裏打ちされた絶対的な自信があるからだろうか。

 「いえいえ。初めてのことばかりで、常にFIAと連絡を取り合って手探り状態で作業を進めています。これが大変でね……(苦笑)」

 3日間で延べ28万人を収容する今年度日本最大のスポーツイベント。他のグランプリには類をみない特徴を挙げるとすれば、どこになるでしょうかね?

 「レースを楽しみながら観光もできるといった点でしょう。富士山や箱根といった行楽地が近いですし、レースと温泉、また御殿場のアウトレットでショッピングといった具合に人それぞれの楽しみ方ができるんですよ」

 レースに行って帰る、だけじゃないニュータイプの複合型GP観戦。サーキットから10km圏内はそうでもないらしいが、30kmもいくと観光地が多く、そこはもう娯楽のメッカ。

 「もちろんコースも自慢です。世界最長クラス1.5kmのストレートに、改良し大幅に変わった後半のコーナー。鈴鹿さんも素晴らしいサーキットですが、うちもF1ドライバーの方々に好評です。あと、レーサーの脇阪寿一さんが仰ってたんですけど、選手によってライン取りが変わるらしいので、面白いバトルが展開するんじゃないかと」

 というわけで、突然ですが、F1の雰囲気をいち早く味わいたくて行って来ました、富士スピードウェイ。神奈川県と山梨県に挟まれた緑深い丘陵地帯、静岡県は駿東郡小山町にサーキットはある。首都圏から車で2時間弱のアクセスの良さは至極便利。もちろん目の前にはバーンと広がる富士山のパノラマ……とはいかず、この日はガスがかかり名峰は拝めず。うーん、コンビニ弁当を買って箸が付いていなかったぐらい無念である。

 さて、受け入れ態勢にある富士といえば、'05年に真新しいピットビルが建ち、パドック周辺は世界のトヨタらしく一切のムダが排された整然とした趣き。コースを走ると、進めど進めど終らない長いストレート、つづくは下りの第1コーナー、そこを越えると100Rと300Rの高速コーナーが連続する。でもって後半、ダンロップコーナーに設置されたシケインを通過すると、高低差35m、距離にして1km弱に渡る上りコーナーが3つも連なるといったあんばい。スピードを取るかパワーを取るか、セッティングの難しいコースだということは観戦初心者でもよく分かる。

 また特筆すべきは、コース面積の2.5倍あるラン・オフ・エリアである。そのほとんどがグラベルではなくアスファルト。つまりコースアウトをしても立て直しが容易であり、ドライバーはレースを壊さずに済むというわけだ。さらに言えば、安定した地面により多くの仮設スタンドを建てることもできる。

 しかーし、現在建っている仮設スタンドは、ヘアピンコーナーに隣接するわずか1箇所だけ。これから順次建てていくというが、F1気分をいち早く味わおうと訪れたのに、なんとも肩すかし。さらに言えば、サーキットの施設全体を見ても簡素というか、F1臭がほとんどしないのである。『さあ、これから世界最大級のスポーツイベントを受け入れまっせ!』といった過剰なまでの熱がないのだ。

 うーん、フライングだったのか……。

(以下、Number680号へ)

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