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TOYOTA CUP JAPAN 2005 FINAL 南米が見せた意地。 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

posted2006/01/12 00:00

 敗れたリバプールのベニテス監督は試合後、自らが圧倒的に試合を支配した事実を繰り返し主張し、判定にも異議を唱えた。

 「我々は21本もシュートを放ち、CKも17本奪った。取り消されたゴールも3つある。これ以上、何ができる?― 私の考えとは異なるルールを、審判は持っていたらしい」

 たしかに数字は、リバプールの優勢を物語っていた。サンパウロのシュートはわずかに4本、CKに至っては一度も機会を得ていない。では、サンパウロはなりふり構わず守り倒し、無我夢中で放ったパンチが偶然当たって勝ったのか。決して、そんなことはない。

 '90年代半ば以降、トヨタカップは豪華な顔ぶれを誇る欧州王者に、有望な若手とベテランを主体とする南米王者が挑むといった構図になった。今回のサンパウロにも、ロナウドやロナウジーニョといった手品師がいるわけではない。だが、彼らは綿密な戦略と経験則によって、その差を埋めてみせたのである。

 前半の彼らは引いて守らず、中盤での戦いに打って出た。そこには、リバプールのパスの出し手を抑えるとともに、大胆に押し上げた敵の守備陣を揺さぶるという狙いがあった。

 「細かいワンツーや大きな揺さぶりで相手を混乱させ、その隙を衝こうと考えたのです」

 サンパウロのアウトゥオリ監督は試合後、戦略の一端を明かしたが、27分のゴールは、まさに狙い通りの形だった。

 リバプールがより圧力をかけてきた後半、サンパウロはほとんどの時間帯で守備にまわることになった。3バックの最終ラインは5バックと化し、中盤の選手たちは働き蜂となってピンチの芽を摘み取ることにのみ専心した。2トップも「前線の守備者」へと変貌。さらに1対1の戦いでは絶妙な駆け引きから何度もボールを奪い返し、そのたびに足もとに絡みつくようなドリブルから反則を誘った。焦るリバプールの心理をも手玉に取る、実に老獪な戦いぶりだった。サッカーをしていたのが前半だとしたら、試合を膠着させることに全精力を注いでいたのが後半の彼らだった。

 それでも指揮官は、「後半も狙いは変えなかった」と戦略の変更を否定した。どうやら、特別な指示を与えてはいなかったらしい。

 ベンチからの指示がなくても、サンパウロの選手たちは流れの中で最良の選択をする判断力と、それを最高の形で実践する技術を遺憾なく見せつけた。なぜ、それができるのか。答えは多分ひとつしかない。彼らが世界一サッカー熱の高い国で鍛えられた選手であり、チームだからだ。華麗な技巧や破壊力だけがブラジルではない。勝とうと思えば、彼らはいくらでも現実的になることができる。

 「よく守ったって?― うん、エゴを捨てて、チームに貢献しようと思った。そうやって僕はいま、世界一ハッピーな男になったんだ」

 アモローゾは無邪気に喜んでいたが、要するに彼らは当たり前のことをしただけだった。

 さすがはブラジル、何というか奥が深い。

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