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シリーズを読み解く1 初戦で見えてきた両軍の“たくらみ”。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
posted2008/11/20 00:00
短期シリーズの第1戦を落としてよいわけはない。だが、落とせない度合い、「必勝指数」とでもいうべきものはチーム事情で微妙に異なる。そこが最長7試合まで戦う日本シリーズの面白いところでもある。
第1戦の必勝指数でいえば、ライオンズのほうが圧倒的に高かった。打線には故障者が出て、長打力が落ちている。先発陣もシーズン終盤、調子を落とした。その中でライオンズはエースの涌井秀章にシリーズの開幕投手を託した。CSで2勝したエースがこのシリーズでも2つ勝つか、それに等しい投球をしなければ、シリーズ全体を制することはできない。
一方のジャイアンツは上原浩治を先発させた。今シーズンの上原をエースとは呼べない。オリンピックのあと復調したといっても、CSでもドラゴンズとの試合で2本のソロ本塁打を浴びている。「投げた試合は絶対に勝つ」と本人もチームも目の色が変っていたかつての「エース上原」ではない。指数はライオンズよりは低かった。
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そのことをよく承知しているように、涌井は経験と実績で大きく上回る上原をはるかにしのぐ投球を見せた。8回まで、打たれた安打はわずかに1本。それもライトがスライディングキャッチしたものの、はじいて落とした渋い1本である。
好投には、バッテリーの研究のあとがよく見えていた。中軸にはストレートでカウントを取り、ボールになるフォークで打ち取るパターンだったが、時にはフォークと見せて威力のあるストレートを投げて的を絞らせなかった。
一方、CSで大活躍した亀井義行に対しては、ストレート系を早いカウントから打ってくる傾向をきっちり把握して、ゆるい変化球で入り、最後にボールになるストレートを振らせて打ち取る。完全試合ペースだったCSの最終戦に比べても遜色ない内容だった。
エースの好投の一方で、ライオンズはいくつかのミスを犯していた。初回の先頭打者、片岡易之はけん制で殺され、三塁の中村剛也はエラーで失点のきっかけを作った。エースが好投しているのに、味方がミスで脚を引っ張る。これで試合を落とせば、そのダメージはただの1敗にとどまらない。だから2本のソロ本塁打でひっくり返したこの試合は、試合開始時点よりもさらに「必勝指数」の高い試合になっていた。
こうした試合で、自分から動くのは勇気がいる。8回まで1安打115球と十分に完投できる状態の涌井を下げて、9回、アレックス・グラマンを登板させた渡辺久信監督の勇気、度胸はシリーズ初采配ということを考えれば、驚きといってよい。
もし好投のエースに代えて出した抑えが打ち込まれたら、ひとつの試合どころかシリーズ全体を失いかねない。だが、先発の涌井で4つ勝つことはできないが、グラマンが最後を締めてチームが4つ勝つことはできる。いや、そうしなければシリーズ全体の勝利はない。そうした判断の交代だった。
それだけに、勝利をものにした時の渡辺監督の表情がいつも以上に上気して見えたのは当然だろう。反対に、敗れたジャイアンツの原監督は淡々としたものだった。自慢の強力打線が2安打では勝機はない。上原が本塁打を浴びるのは、ある程度は覚悟していただろうが、不満はある。
「本人にいろいろ反省はあるでしょう」
珍しく皮肉めいたコメントだった。
ただ、ジャイアンツには収穫も少なくなかった。好投の涌井からなんとかもぎ取った1点は、相手のエラーで出た走者を送り、渋いタイムリーで還すというおよそジャイアンツらしからぬ抜け目のない取り方だった。けん制で走者を刺して機動力を封じ、リリーフ陣はほぼ完璧にライオンズを抑え込んだ。第2戦以降の「仕込み」はできたといえる。
やや劣勢と思われたライオンズが敵地で先勝したことで、シリーズはようやく号砲が鳴り、接戦の匂いが漂いはじめた。