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KEYMAN OF THE GAME 1 中島裕之 リーダーシップの証明。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

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photograph byHideki Sugiyama

posted2008/11/20 21:19

KEYMAN OF THE GAME 1 中島裕之 リーダーシップの証明。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 1対1の同点で迎えた6回、西武はベンチ前で円陣を組んだ。大久保博元が中心になって、先発の上原浩治対策を指示したのだ。

 「ストレートに狙いを絞って、思い切って振ろう。初回から飛ばしているし、そろそろバテが来る頃だから」

 打席に向かう中島裕之は、前の打席での死球のことを考えながら、素振りを2度してバッターボックスに入った。「2-0と追い込んでからの死球は上原さんにとって痛かったはずだ。内角球は続けて来ないだろう」と読んでいた。以前、「死球を出した後の投手って、意外なぐらい内角球を続けてきませんよね」と語っていたこともあり、それは中島のセオリーとしてあったのだろう。

 中島は2球目の外角球を強振し、ファールにした。中島が次も外角だと的を絞ったのは、この時だった。

 上原の投じた3球目は140kmのストレート、中島の読み通り外角球であった。

 狙い通りに捉えたボールは、右中間のフェンスを越えた。このソロホームランが決勝点となり、西武は日本シリーズの初戦を制した。

 「チームを勢いづけられるバッティングが出来て嬉しい」とだけ、中島は語った。

 中島は今年でプロ8年目である。西武のスカウトは、伊丹北高在籍時の中島を観て、いきなりポジションを外野手からショートにコンバートしてくれと頼んで帰ったという。当時の西武のショート、松井稼頭央(現アストロズ)がメジャーに行こうとしている中、後釜になる素材だと見られたのだ。

 プロ入りしてからは、昨年まで西武のヘッドコーチだった土井正博が手塩にかけて育てた。土井は清原和博の恩師でもある。

 「監督には、今は迷惑をかけているが必ず恩返しできるときが来るから、がまんして使って欲しいとお願いしている」と、ずっとスタメン起用を進言してくれた。しかし、土井は昨年、成績不振の責任を取って辞任した。最後の試合で、中島は号泣した。その時の言葉は今でも忘れていない。

 「もう教えることは何もない。“一定の力で振る”ことを忘れないでやってくれ」

 始動からフィニッシュまで無駄な力を入れず、同じ力で振り切るこの打法をマスターしてから右中間の打球が思いの外、飛ぶようになったのだ。それは、今季の3割3分1厘、本塁打21の好成績にも繋がっている。

 後ろ盾だった土井コーチがいなくなり、自立心も出てきたのだろう。今季はチームリーダーとして、打者とコーチの間が険悪になる場面でも、「目的は一つ(優勝)だから理解しよう」と間に立つようになった。この決勝本塁打は、そんな中島の成長の姿だった。川﨑宗則(ソフトバンク)、西岡剛(ロッテ)ら、北京五輪に呼ばれた、仲のいい同世代の遊撃手の中では常に二番手に見られてきた中島だが、大きく成長したことを証明する一発だった。

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